短期導入の成功には
トップダウンの徹底が不可欠
産業用インクジェット事業へのOracle ERP Cloudの導入は6月にスタートし、10月のカットオーバーを目指してプロジェクトが進められている。わずか10数週間での短期導入であり、従来のERPシステムとはプロジェクトの進め方やマネジメントの仕方が大きく異なる。
これまでは、業務の現場の要望を忠実に要件に落とし込み、それをシステムに実装するというボトムアップの作り方をしてきたが、クラウドでは“業務をシステムに合わせる”トップダウンのアプローチが不可欠となる。そのアプローチを成功させるうえで最も重要なのは「事業部門長などビジネス・オーナーとしっかりエンゲージメント(合意)すること」だと石野氏は話す。
「現場に近くなればなるほど、『自分たちはこうしたい』『これまではこうしていた』という意見が強くなりますが、それに従っていたのでは多くの作り込みが発生し、短期導入が難しくなります。それを避けるには、まずビジネス・オーナーに『少し制約が強くなるが、トータルでこれだけコストが下がり、早く導入できる』と説明し、合意を得ることが肝要なのです」(石野氏)
だが、それでも業務とシステムの間にギャップが生じることがある。その際には業務をどう合わせるかを判断してもらうが、その決断が遅れればプロジェクト全体の遅延につながる。そこで、ビジネス・オーナーにはプロジェクトのステアリング・コミッティにも加わってもらい、即断/即決で物事を進めていく。
経営スピードのさらなる向上でも
ERPが武器に
リコーはコストを削減するために導入/運用方法にも工夫を凝らした。初回の導入時はオラクルのエンジニアが主導するが、これに補佐としてリコーの戦略IT子会社であるリコーITソリューションズのエンジニアも加わる。プロジェクトを通して彼らにノウハウを移転し、次回以降のプロジェクトでは徐々に作業主体をリコーITソリューションズに移していく。いずれは導入から運用まで全てを同社で行う計画だ。
「そもそも、ERPは経営資源管理のためのシステムであり、現場でオペレーションする方たちからすれば使いづらいのは当然です」と話す石野氏。だが、この上でビジネスをドライブすることにより、事業活動で生じた全ての情報がERPの中に蓄積されていく。その情報をうまく活用することで、業務の効率化やスピーディな経営管理が可能になる。「そうして経営の質を高めていくことが、ERPを使う最大の目的なのです」と石野氏は言い切る。
その“経営の質の向上”に向けた取り組みも加速している。リコーは4月、CEO室を組織し、さらなる経営強化に向けたいくつかの重点施策を社長直轄の下で推進している。その1つに、石野氏が担当する“経営情報の可視化”がある。
「これはグローバルな経営情報を事業軸/リージョン軸で経営層が共有し、共通の言葉で議論することによって経営の質を高めていこうという取り組みです。Oracle ERP CloudやOracle EBSを導入した事業はさまざまな情報を得られますし、トランザクション・レベルまでドリルダウンして見ることができます。それらの情報をフルに活用し、経営スピードのさらなる向上に役立てたいと思います」(石野氏)
(取材・文/名須川竜太 撮影/西出裕一)
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