ガンは遺伝素因と環境因子が複雑に絡み合って発症する。遺伝素因は変えられないが、環境因子のなかでも重要な位置を占める生活習慣は変えられる。よくいわれることだが、タバコを吸わない、腹八分目を守る、酒量を守る──などだ。
ただ、それでもなってしまうことがあるのがガンという病気だ。
「誰でもガンになる可能性はある」と肝に銘じ、定期的なガン検診を受けることが、ガン克服のカギである。検診による早期発見や治療の進歩により、かつて「不治の病」といわれたガンは、「治せる病」に変わりつつある。
消化器外科を専門とし、癌研究会附属病院(現・がん研有明病院)で数多くのガン診療経験を持つ木下博勝氏に、ガン検診のあり方や病院選びのポイントなどについて聞いた。
治る見込みが期待できるからこそ
早期発見が重要

医学博士・鎌倉女子大学 家政学部教授 専門は消化器外科。財団法人癌研究会、東京大学医学部附属病院第一外科などを経て現職。 2007 年9 月、直腸ガンに関する研究で、東京大学で博士号授与。現在も診療、教壇、講演会などで多忙な日々を送る。妻は女子プロレスラーでタレントのジャガー横田さん。
1996年、ハーバード大学のガン予防センターは、米国人のガン死亡原因のうち「喫煙、食事、飲酒、運動不足」に起因するものが7割を占めると発表した。とくに喫煙と食事の占める割合は大きく、6割に達する。
すなわち、禁煙を実行し、食習慣を含むライフスタイルを改善することがガンになるリスクを下げることにつながる。ただ、忘れてはならないのは、それでもガンになることはある、ということだ。誰でもなる可能性のある病気だからこそ、克服するためには早期発見が大切なのである。
杏林大学医学部を卒業後、消化器外科医として癌研などで活躍。現在は臨床医として、また鎌倉女子大学教授として教壇に立つ木下博勝氏は「私も年に1回必ずガン検診を受けていますが、40歳を過ぎたら検診をおろそかにしないことです。ガンは症状が出てからではすでに遅いのです。早期発見は早期治療につながり、治る見込みも高くなります」と語る。
どんなガン検診を
受ければいいのか
現在、職場や市区町村などで一般的に行われているガン検診には胃ガン、肺ガン、大腸ガン、子宮頸ガン、乳ガンの検診がある。これらの検診は科学的根拠があるとされ、定期的に受けることで早期発見、早期治療、治癒につながる可能性が高い。無論これ以外にも人間ドックなどでさまざまなガン検診が実施されている。
たとえばCTやMRIといった画像診断や、全身を一度に診ることができるPET検診の需要も増えている。ちなみに一時期、PET検診だけ受けていれば、あらゆるガンを早期に発見できると喧伝されたことがあったが、いうまでもなくこれは誤りだ。有用性が高い検査であることには違いないが、現在では他の画像診断と組み合わせて行うようになってきている。木下氏も「PET検診は再発の有無判定に最も有用性が高い。一般の方が検診目的でPETを受けるのならCTとMRIと組み合わせるべき」と語る。
「私が医師になった(94年)頃は、ガン患者さん本人には、直接告知しないことも多かったのですが、今はほぼ全員に告知するようになりました。実際、告知しても患者さん本人がガンと闘う姿勢が強く感じられることが増えました。その理由として、早期に発見されることが増えたこと、またガンに対する理解が深まり、ガン種によっては治る見込みも期待できるようになったことが挙げられます」
だからこそガン検診は大事なのだ。