生活の向上や社会問題の
解決に貢献する
一方、バカンが提案したのは、JR駅ビル内のレストランやみどりの窓口などを利用する人に、混雑状況や待ち時間などを示す案内表示用サイネージである。
特設展示コーナーに設置されたサイネージには、大宮駅の駅ビル「大宮ルミネ」に入っている全レストランの案内が表示されていた。しかし、普通の案内と異なるのは、それぞれの店名のそばに「約15分待ち」「約30分待ち」といった待ち時間が表示されることだ。
駅ビルやデパートなどでは、レストランのフロアが上層階にあることが多い。「せっかく上の階まで上がったのに、混んでいて店に入れず、がっかりしたという経験は誰にでもあるはず。そんな徒労感がなくせるように、ビルの入り口や1階で全階の店舗の混雑状況が確認できるサイネージを開発したのです」と同社の河野剛進代表取締役は説明する。
バカンが開発したこの案内表示用サイネージは、各店舗に設置されたカメラが客席状況や店舗入り口の行列状況を撮影し、その映像をAIが解析することで待ち時間が表示される仕組みだ。待ち時間が短い店舗ほど、目立つようにサイネージの上部に表示されるという工夫も凝らされている。
同社はこれまで、主に飲食店に特化した案内表示用サイネージの開発を行ってきたが、JR東日本との協業が実現したことにより、みどりの窓口など、受付窓口の混雑状況を示す技術にも磨きを掛けた。「今後は協業によって培った技術を応用し、より広範囲な分野にサービスを広げていきたい」と河野氏は語る。
JR東日本グループは、駅や鉄道だけでなく、旅行やレジャー、スポーツ、情報など、さまざまな生活関連事業を展開している。そのひとつであるJR東日本グループのフィットネスクラブ「ジェクサー」とのコラボレーションでテストマーケティングを開始したのがバックテックだ。同社は、京都大学大学院医学研究科の膨大な研究データをもとに、十人十色といわれる腰痛の原因を探り出すソリューションを開発。スマートフォン上で簡単なアンケートに答えると、腰痛のタイプを判定し、それに合った対策トレーニング方法が提案される仕組みだ。バックテックはJR東日本との協業によって、判定結果に基づいたトレーニングが「ジェクサー」で提供されるサービスを開始した。
同社の福谷直人CEO(最高経営責任者)は、「日本では約2,800万人、およそ4人に1人が腰痛に悩んでおり、仕事や生活に悪影響を及ぼしています。日本の生産性を高め、人々がよりよい生活を送れるようにするためにも、腰痛対策は欠かせません。JR東日本との協業をきっかけとして、今後は電車による通勤・通学時の腰痛対策など、提案の幅をさらに広げていきたいと思います」と語った。
同プログラムを主催したJR東日本の表輝幸・執行役員(事業創造本部副部長 兼 地域活性化部門長)は、「2017年はJR東日本の設立30周年に当たり、さらなる未来をお客さまやビジネスパートナーの皆さまと築き上げていきたいとの思いを込めて、『TICKET TO TOMORROW~未来のキップを、すべてのひとに。~』というスローガンを掲げました。その一環として、生活サービス事業については今後10年を見据えた『生活サービス事業成長ビジョン(NEXT10)』を策定しています」と語る。
「JR東日本スタートアッププログラム」は、そのビジョンに沿って外部のベンチャー企業などの新しい技術や斬新な発想を採り入れ、生活サービス事業のフィールドやエリアを広げていくためのものだという。
表氏は、「若い起業家の皆さんのエネルギーと、われわれJR東日本が提供できるリソースを融合させて、駅や鉄道のみならず、あらゆる生活ニーズへの対応や社会問題の解決に結び付くサービスを提供していきたい。そのために、『JR東日本スタートアッププログラム』は今後も毎年継続していきます」と語った。