「クラウドでコストが
下がる」は本当か

 クラウドサービスへの関心は高まりつつあり、実際の活用も広がっている。アイ・ティ・アールの「IT投資動向調査2012」からもその動きを読み取ることができる。「主要なIT動向に対する実施率の変化」という調査項目では、SaaS、PaaS、IaaSに対する実施率は、3年後に大幅に増えると予想されている(図2)。

図2 主要なIT動向に対する実施率の変化拡大画像表示

「これはITの構造改革が進んでいることも大きな要因です。今まではERPなどアプリケーション主導型でシステムが導入されてきましたが、これらの導入は一巡しました。昨今の激動する経営環境のなかで、今企業はITによる業績への貢献に大きな期待を寄せており、それを実現すべく“ITインフラの柔軟性や拡張性をいかに確保するか”に関心が移ってきています」と内山氏は変化を指摘する。まずITインフラを整備し、そのうえでシステムを思うように展開しようとする傾向が強まっているのだ。

 しかし、「誤解されている部分もある」と内山氏。「クラウドサービスを使えばITコストが下がると言われることが多いのですが、コストが下がるかどうかは使い方次第です。むしろ注目すべきなのは、ビジネスの変化に対する柔軟性を高められることです。新たな拠点の開設、新規事業への参入、M&Aなど、契約すればすぐ利用を開始できるクラウドサービスであれば、ダイナミックに変化に対応できるようになります」(内山氏)。コスト面は副次的な効果と考えたほうがよいだろう。

大企業向けのサービスを
中堅中小企業も利用できる

 もう一つのメリットは、中堅中小企業が大企業並みの品質のサービスを利用できるようになるという点だ。サーバやネットワークの能力などのITインフラはもちろん、開発すれば億単位の費用がかかるアプリケーションも時間単位の価格で利用できるようになる。「同じ業務プロセスを利用できるようになるということは、資本力による格差が縮まるということです。体力のない中堅中小企業が、大企業と伍して競うことができるチャンスが広がります」と内山氏は語る。

 メリットの多いクラウドサービスだが、どこから取り組めばよいのだろうか。内山氏は「利用を成功させるにはステップがある」と語る。まず自社のシステム資産を棚卸しして、何があるかを把握する。次に3年くらいのスパンでどのシステムを六つの選択肢のどこに移すのかの「配備モデル」のロードマップを作る。あとは着実に移行計画を実施するだけだ。

 ただ、ここで重要なのが、変動的なものと、恒常的なものを分けて進めることである。「災害時の対策・対応を含め、ビジネスの変化に合わせて迅速に対応すべき部分は積極的にクラウドサービスを使っていくべきです。切り離して2本立てで考えることで、クラウドサービスのよさを最大限に引き出せます」と内山氏は語る。長期的な視点を持ちながら、一方で柔軟性と迅速性を確保する。それがこれからのITインフラの要点になるのかもしれない。