医・食・住の成長市場で社会的課題を解決し、事業を拡大する光学機器メーカーのトプコン。「住」の分野では建設ICTソリューションを提供し、土木工事の工場化を目指す。同社の江藤隆志常務に「地域密着型」という独特なICT戦略を聞いた。

 欧米に比べて日本の建設業の施工効率の低さが指摘されることがたびたびある。しかしそれは、技術の遅れなどではなく「複雑な日本の地形にある」とトプコンの江藤隆志常務は指摘する。例えば関越自動車道の東京・練馬IC〜新潟・長岡IC間の距離はおよそ250キロメートル。三国山脈を貫通して新潟側に抜ける山岳道路だけに高低差は800メートルもある。

トプコン 営業本部長
江藤隆志 取締役兼常務執行役員

ドイツのアウトバーン「ベルリン〜ハンブルク」間は、距離は関越自動車道とほぼ同じだが、高低差は150メートルにとどまり、平地に造られた高速道路であることが分かる。

「日本は国土の6割が山という特性により、土木工事だけでなく多様な工種の組み合わせが必要になり、高コスト体質になりやすい状況です。また日本ではトンネルや橋の構造物の施工効率を上げる技術が先行し、ショベルやドーザーのような土工用重機の自動化・効率化はあまり進んでいませんでした」と江藤常務は説明する。

 

ICT施工に不可欠な
3Dデータスキルが不足

トプコン本社のショールーム。医・食・住の事業に対応した歴代の製品から最新の機器までが並ぶ。ジオラマも多用されており「実際の現場での具体的な使い方をイメージできる展示構成」になっている

 トプコンはここに着目した。1994年には米社を買収し、本格的に2Dのマシンコントロールの分野に進出。98年には現在のICT自動化施工(※)のスタンダードとなっている3次元位置情報を活用した「3D―MC」技術を世界に先駆けて確立し、情報化施工をリードしていく。 

 その後、国は施工技術の高度化と施工管理の高度化を目指す「i-Construction」を掲げ、全プロセスでICTを標準化することをうたった。その効果は高く、国土交通省の資料によれば従来施工の比較で起工測量から完成検査まで土工にかかる一連の作業時間が約3割削減されたという。 半面、課題も浮き彫りになっている。それは、

(1)ICTへの理解不足
(2)3D設計データのスキル不足
(3)ICT機材の低い普及率
(4)現場サポート人員の不足
(5)発注機会の増加

 である。

 それに対しトプコンはICT機器を提供する立場から、ICTに関する情報提供、ICT教育体制の充実、普及を促進できる機器の開発と新規サービスの提供、ICT地域協業、地方自治体への協力で対応すると決めた。

 特に大きな課題は(2)。起工測量、設計データ作成、出来型計測の作業工程のいずれもが、従来施工に比べ外注比率が高くなっているという。ICTの恩恵を受けるべき建設会社自身に3Dデータを作成するスキルがないためだ。

 ICT建機は3Dデータがなければ動かない。精密な3Dデータでなければ発注者が求める精度が出せない。そこで「キーポイントはミリ単位の精密な3Dの位置情報をリアルタイムにデジタルで出し入れできる技術」(江藤常務)になる。

 製造業では作業機械が固定されて加工対象のモノがラインを流れていくが、建設業では土地は不動のため、作業機械の方を動かさなければならない。だからこそ精密な3Dの位置情報が必要になるわけだが、トプコンはマシンコントロール事業に進出後、20年を超える時間の中で技術を磨き続け、日本の現場に合った数多くのICT対応製品を送り出してきた。OEM製品として重機に採用されるケースも多い。

「当社は重機メーカーではありません。そのため、どの重機メーカーの機械にも当社の製品を載せることができる点が強みです」と江藤常務は胸を張る。

ICT自動化施工…建機に精密なGPSやIMUなどのセンサーを搭載することにより、3次元の設計データに基づいて自動で整地や掘削作業を行えるようにするシステム。