少子高齢化が進み、後継者不足が問題化している日本の農業。一方でIT化・AI化の大きな波は農業の世界にも押し寄せつつあり、欧州の大型農場では生産効率向上を目指した最新技術の導入が進んでいる。わが国において注目されているのは企業や業界の垣根を超えた“農業データ利活用”の動きだ。旗振り役を担うのは、内閣官房 副政府CIOを務める神成淳司 慶應義塾大学環境情報学部准教授。日本の農業を強固な産業として確立するための取り組みや世界に向けたビジネス展開の“勝機”について、神成准教授が語った。

欧州で進む
モバイル系センサーの活用

“経験則に基づく名人芸”を次の世代の農家に継承神成淳司
慶應義塾大学環境情報学部、同大学医学部准教授(兼担)
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室長代理/副政府CIO

1996年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、2004年岐阜大学工学研究科博士後期課程修了、工学博士。慶應義塾大学環境情報学部専任講師などを歴任し、2010年から現職。また2014年に内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室長代理/副政府CIOに着任(非常勤)し、政府のIT総合戦略や農業情報創成・流通促進戦略、農業標準化ガイドラインなどの政府横断的な情報政策全般に関わる。著書に『ITと熟練農家の技で稼ぐ AI農業』(日経BP社)などがある

 毎年数十万人が訪れる最大規模の農業国際見本市「アグリテクニカ」が、昨年11月にドイツ・ハノーバーで開催され、私は農業技術の最先端やトレンドを視察してきました。

 特筆すべきは、やはり農業へのITの利活用によるさまざまなデータ連携です。「ジョンディア」ブランドを展開する世界最大の農機具メーカー、ディア・アンド・カンパニー社は「マイ・ジョンディア」というネットサービスを提供しています。そこではユーザーがマイポータルを介して自分の農機データを管理したり、外部のパートナー企業が提供するAPI(Application Programming Interface)を用いて、気象データやドローンで収集したデータを連携させたりする取り組みが進められています。このようなデータ連携の取り組みが、世界各国において近年急速に進められていることが印象的です。

 EUでは、2017年から2020年まで、およそ3500万ユーロの費用を投じ、農業用のデータプラットフォームを構築する「IoF(Internet of Food & Farm)2020」プロジェクトをスタートさせました。畜産・農作物・食品などの領域を対象に多様なデータを取り扱うデータプラットフォームを構築し、ビックデータを収集・活用してエビデンスベースの農業を推進することを目的としており、プラットフォーム構築と並行して複数のプロジェクトを走らせています。

 我が国と比較すると、欧米の農業は規模が大きく、先進国の少子高齢化に伴う人手不足を補う意味からも、さらなる集約化・効率化の必要性が高まっています。特に近年では、フィールドサーバーなどと呼ばれる圃場設置型のセンサーシステムから、農機やドローン、小型飛行機などに取り付けた“移動式センサー”活用への新たな流れが出てきています。こういった移動式センサーは、設置・ランニング費用面などで優れている点が普及の要因となっているのでしょう。こうした「モバイル系センサー活用」の流れは、欧州のみならず世界的な動きになると思われます。