スマートハウス化への
環境整備が進む
住宅のスマート化のカギを握るのがスマートメーターとHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)だ。
スマートメーターは、通信機能を持たせ、住宅と電力会社の双方に電力使用量データを送ることができるようにした次世代の電力メーターで、30分ごとに電気の使用量を計測する。
昨年11月、全電力会社は「5年間で8割の電力メーターをスマートメーターに替える」ことに踏み切った。これで一気にスマートハウス化への環境が整う。ちなみにメーターの交換は、それぞれ地域の電力会社が行う。
一方、家の中で電気使用をやりくりする執事役を担うのがHEMSだ。
「パソコンにUSBでいろいろな機器をつないで使うように、HEMSは家中のエネルギーをつないで制御するものです。メーカーも年式も異なる家電をコントロールするには共通の規格が必要ですが、これまでは企業ごとに開発が進められてきたため、互換性に問題がありました。最近、国を挙げてエコーネットライトという標準プラットフォームを推奨することが決定。環境が整うことで、今後は住宅だけでなく自動車、家電、情報産業までさまざまな企業が参入、業種や業界の垣根を越えた取り組みが加速します」(林教授)
エネルギー危機意識で
住宅像も変化
東日本大震災以降、急速にスマートハウスが注目され始めたのは、国も国民も一様に「エネルギーがピンチだ!」と実感したからにほかならない。
だからといって、節電、節電だけでは、経済も、人の心も萎縮していく。
「大切なのは生活者それぞれのライフスタイルに合わせながら、利便性、快適性を守っていくこと。これまではエネルギー利用の『見える化』などが注目されたが、これからはさらに進んで、新たにできる選択肢を広げていく必要があります」(林教授)
スマートハウスといえば、ITによる家電などの遠隔操作や、太陽光発電でつくった電気を自家消費する「創エネ&蓄エネ」、電力会社に売る「売電」などがよく話題になる。もちろん、エネルギーの「見える化」や「最適制御」も得意技だ。
では、各種の機器が全部必要かといえば、そうではない。
住み手は好きな機器を選んで購入。それらを用いて、スマートメーターからの電力消費量や料金メニューを勘案し、HEMSが機器の起動停止や温度調整などをコントロールして、ピークカットやピークシフトを行う指令を出す。HEMSという執事役がいれば、複雑な作業もスムーズに進む。こうして各人各様に、ムダなくシンプルに暮らせることがスマートなのである。
生活に合わせ
自在に住まいを選ぶ
いまのところ、スマートハウスで先行しているのは、大手ハウスメーカー各社。それぞれ独自の考え方を打ち出し、早くから開発を進めてきた。
それを追い大手家電量販店がスマートハウスに参入、自動車メーカーとの連携も進んでいる。
さらに林教授は、スマートハウスの浸透につれ、普及に伴いHEMS価格が下がり、多くの事業者が参画して裾野が広がって、やがて中古住宅の世界もスマート化していくと予測する。
「まずは住む人が自分にとって何が重要なのかを知り、自分で選べる環境が整うことが必要。そのうえでIT任せにできることはどんどん自動にしていけば、そのぶん、豊かな自分の時間も増えるはずです」(林教授)
いわゆるスマートハウスの取り組み以外にも、マンション単位で一括受電してエネルギーコストを低減化させる取り組みや、個々のライフスタイルに合わせた室内設計を行うなどの新しい動きも出てきている。
あるいはスマートハウス同士を連携させ、エリア単位でのエネルギー・コントロールにより利便性と快適性の追求を図るスマートタウンも始動している。
ITを駆使して生まれる新しい住宅像は、どんどん進化を加速させており、当分目が離せそうにない。
出所:早稲田大学大学院先進理工学研究科 林泰弘研究室