ハイパフォーマー分析を
新卒採用に生かす

 実際、どのように経営に生かしているのか。

「最もニーズが高いのはハイパフォーマー分析です。適性検査や評価などのデータを基にハイパフォーマーを定義し、採用や育成、配置などに役立てます。新卒採用は毎年行われるので、結果を検証しやすいのも導入企業が多い理由。さらに、新卒採用でも1人当たり100万から200万円かかるコストを大幅に減らせる効果もあります」

 採用は、HRテクノロジーを使った方が圧倒的に精度は高いそうだ。というのも、人の判断は第一印象に引きずられる傾向があるなどの面接官バイアスがかかりやすい。経験を積んだ面接官でも似たような人ばかりを採用してしまうらしい。

 そうした偏りをなくす意味でも導入する企業が多く、HRテクノロジーによる判定だけで内定を決める企業も出始めているという。「これを使うと、採用担当者の仕事は面接や採用の判定ではなく、内定を出した人に入社してもらうためのフォローになります。そのためには自社の戦略や理念、ビジョンといったことをよく理解し、情熱を持って語ることができなければいけない。そうした教育も行われています」。

 採用に関しては、同じタイプの人の応募ばかりで、多様な母集団が形成できないことを課題に挙げる企業も多い。そこで、今までとは違うタイプの人にエントリーしてもらえるように、アドテクノロジーを応用して採用広告の打ち方を変えるといった取り組みも始まっている。

日本企業の課題は
「エンゲージメント」

 海外の人事では、社員は業績向上にコミットし、企業は社員が最大のパフォーマンスを上げられる環境づくりにコミットする「エンゲージメント」や、経営改善や組織的なネットワーク分析、相互作用分析(社員の行動研究)などにも利用する「ピープルアナリティクス」などがホットなキーワードだ。海外でもピープルアナリティクスは本格的な取り組みが始まったばかりだが、エンゲージメントでは日本企業はかなり遅れている。

「社員アンケートで得たデータを分析し、抽出した課題を改善して指標となるエンゲージメントスコアを上げるといった取り組みもあります。これまでアンケートは年1~2回でしたが、最近は頻繁にサーベイを行って短いサイクルで改善を図ることが可能になっています」

 例えば、全社員が金曜日の就業後に1週間の仕事を振り返り、スマートフォンでアンケートに答えると、週明けの月曜日には分析結果が経営陣や現場の管理職に届けられる。それを基に1週間の重点課題が決められ、各社員が改善に取り組む。こうしたサイクルを繰り返すことができるのだ。さらに、収集できるデータが音声や画像・映像、行動データまで広がり、エンゲージメントスコアを高める手法も多様化している。

「エンゲーメントスコアが上がると、中長期的に企業業績も向上する」という相関関係があることは実証済み。エンゲージメントに焦点を当てた経営が日本でも重要になっていくだろう。

無駄が多い日本企業は
導入効果が出やすい

 HRテクノロジーの必要性を理解していても、どのアプリケーションを導入し、どのように経営に生かすべきなのか、悩んでいる経営者や人事担当者も多いのではないだろうか。岩本氏は次のようにアドバイスする。

「ビッグデータ解析はデータ量が増えるほど精度が上がっていくため、手探り状態でも早く始めるべきです。ハイパフォーマー分析のように一部の機能ならコストも安く済みます」

 各社がそろってHRテクノロジーを重視すると、どの企業も同じような戦略になるのではという疑問を持つかもしれない。しかし、企業によって重んじるパラメーターが異なるため、逆にオリジナリティーが際立つようになるという。ハイパフォーマーも各企業で定義が異なる。重要なのはHRテクノロジーを上手に使いこなすことだ。そのためには経験を積みながら多様なデータを活用して付加価値を生み出すテクノロジーリテラシーを高めていくことも必要だ。

 ROA(総資産利益率)を重視した経営をあまり行ってこなかった日本企業は無駄が多く、採用支援や労務管理だけでもHRテクノロジーの導入効果が出やすい。まずは取り組みやすいところから始めてみてはどうか。