では具体的にどのように管理すればいいのか。木村氏が推奨しているのが「ケース管理」だ。ケースとは箱のことで、一つの箱の中に特定の案件に関する情報をすべて集約する手法だ。例えば製品企画プロジェクトについて一つのフォルダを作成し、企画書、稟議書、見積もり、議事録、取引先とのメールなど、あらゆる情報を一元的に管理する。情報が発生した時点でケースに保管するのが基本的なルールだ。プロジェクトの発足時点からの履歴がすべてケースに保存されるので、過去の経緯が参照しやすく、説明責任を求められた場合にも対応しやすい。

 情報を探しにくくしている原因の一つに、分類の拙さがある。多くの組織では、組織構造や文書の種類などを基準に分類しているが、これでは探す人はわかりにくい。「仕事の目的」と「分類」が合致していないからだ。ケース管理なら、仕事の目的に応じて分類されるので、後から探しやすい。

 もちろん、ほとんどの文書が電子化されていることが大前提だ。どうしても原本で保存しなくてはいけないものは別として、紙の文書はスキャンして電子化してから保存しておくことが必要だ。

担当者を配置し
ルールを徹底させる

 さらに、こうした情報管理の方法を長期間にわたって維持していくために、運用ルールを徹底させる仕組みも欠かせない。木村氏が参考例として挙げるのが、世界屈指の消費財メーカーであるP&Gの方法だ。

 P&Gでは世界各国の従業員に対して、情報管理のルールを身に付けさせるため、Eラーニングによる教育を実施。専用の問い合わせ窓口も設け、ウェブサイトやメールでのサポートを行っている。世界で13万人以上いるP&Gの従業員に対して、文書管理の専任担当者はわずか2人だ。徹底して電子化を推進し、情報システムを駆使することで、少人数での情報管理体制の運営を可能にしている。

「日本企業でP&Gほど情報管理に力を入れている例はあまりないようです。行政に関しては大阪市、佐賀県、東京都豊島区など、優れた手法を実践しているところも徐々に現れてきました。それらに共通していることは、トップが本気であること。トップが危機意識を持ち、自ら率先して情報管理システムを使用しなくては、組織は付いてきません」

 曖昧さを受け入れ、あうんの呼吸で理解し合うのが日本人の国民性といえる。だからこそ、これまで日本企業では情報管理を徹底していなくても何とかなってきた。それは日本人のよい面でもあるが、グローバル社会ではマイナスになる。不要なリスクを避け、国境を越えた情報共有やコラボレーションを実現するためにも、活用しやすい情報管理基盤の構築は不可欠といえるだろう。