健康向上やストレス解消が
新たなポイントに
福利厚生制度は、従業員の企業への帰属意識を高めるのに有効だが、従業員の多様化への対応が今、大きな課題になっている。「例えば育児、住宅等の特定の施策への過剰な対応は、対象外の従業員の不満の種になりがちです」と言う西久保教授は、「育児、介護といったライフサイクルの一部分のサポートに加えて、健康向上施策やリフレッシュにつながる施策等を幅広く用意し、誰もが自由に必要なものを選べるような制度づくりにも考慮する必要がある」と提案する。従業員一人ひとりの満足の向上につながる制度が期待されるわけだ。
とかくストレスがたまりやすい職場で、リフレッシュ効果の高いメニューを用意することも、従業員のメンタルヘルスの維持と生産性向上に欠かせない。そこで、「あらためて脚光を浴びているのが社員食堂です」。
当初社員食堂は、従業員の栄養補給を目的に設置された。それが今や、「ストレス発散や従業員の交流の場として、わいわいがやがやとした中から、良質のコミュニケーションが発生する社会性と祝祭性をまとった空間として社員食堂が捉えられるようになりました。ちょっとしたイベント空間のイメージですね」(西久保教授)。
食事には、多くの人が関心を持つ。魅力的なメニューと快適な空間を提供することで、従業員の高い満足を得やすいわけだ。
その上、従業員の健康対策としての効果も小さくない。食生活の乱れは、健康に悪影響を及ぼす。一日の食事のうち1食でも栄養バランスに優れた食事を取ることが、健康維持に大きく役立つし、食事への関心を深めるきっかけにもなる。「いわゆるメタボ健診のスタート以来、健康的な食について啓発する役割も社員食堂が担うようになりました」と、西久保教授は振り返る。「社員食堂運営を外部委託する企業が増えていますが、コスト対策はもとより、食と健康についての専門的なノウハウに期待する面もあるようです」。
多様な働き方に
マッチした施策を
「格差解消」もまた、福利厚生の課題となっている。特に大企業では、社宅や独身寮、レクリエーション施設といったいわゆるハコモノは、本社や主力事業所の所在地に偏在しがちだ。これでは、他の地域に勤務する従業員には利用しにくい。「こうした福利厚生の格差を解消するため、脱ハコモノとアウトソーシングによるカフェテリアプラン(※2)導入が進んでいます」と、西久保教授は分析する。
脱ハコモノは、福利厚生のコスト削減にも寄与する。「実際、企業が負担する法定外福利厚生費は、1997年からの10年間で約30%も減少。社宅等住宅にかかる費用は約18%減少しています。一方、育児関連制度の費用は約7倍に、ライフプランセミナーや冠婚葬祭費用補助などファミリーサポート関連の費用は約2倍になっています」(西久保教授)。脱ハコモノ・ソフト化は確実に進んでいるのだ。
「不満解消のツールであるはずの福利厚生が、格差による不満を助長しては本末転倒。従業員が公平に制度を利用できるようにと追求すると、アウトソーシングの導入は必然ともいえます」。従業員の多様なニーズに応えるにも、各企業の実情に応じてカスタマイズできるプランのアウトソーシングは有効だ。
このような現状を踏まえ、効果的な福利厚生制度を構築するためにはどうすべきか。「長年の労使交渉の蓄積で、多様な制度が乱立しているかもしれません。従業員満足度の向上、制度利用のターゲットを明確にして、ニーズに着実に応える制度設計が求められます」と、西久保教授は言う。例えば、老後の心配なく仕事に専念できるよう、生活設計のセミナーや資産運用のサポートを行う。非正規従業員の定着を図るため、カフェテリアプランの限定適用などを考えるといったものだ。あるいは、日本一の社員食堂をキャッチフレーズに企業魅力をアピールするといったアイデアもある。
「福利厚生は上手に制度設計すれば、大きな費用対効果を期待できます。そのためには、職場の変化に応じた絶え間ないアップデートが必要です。あらためて戦略的な福利厚生について考えていただきたいところです」(西久保教授)