アイ・ティ・アール
シニア・アナリスト
甲元宏明氏

 加盟店はインターネットで手続きをした後、自分のスマートフォンにアプリケーションをインストールし、専用のカードリーダーを使って顧客のクレジットカードをスキャンする。顧客は店員のスマートフォン画面上に指でサインするだけで決済が終了する。初期費用ゼロで、カードリーダーやアプリケーションも無料。固定料金もなく、手数料は取引額の2.75%と低めの設定だ。

「利用料金を抑えて手軽に利用できるようにしたことで、これまで対象外と思われていた店舗を取り込むことに成功しました。すべての処理をクラウドで行っているからこそ、実現できたイノベーションです。今は顔写真による本人認証をクレジットカード代わりに使うという画期的なビジネスモデルを展開しています。こうした新しい価値を、リスクを抑えながら提供できることが、クラウドの最大のメリットなのです」と甲元氏は語る。

経験経済を実現する
クラウドサービス

 クラウドを活用して新しいビジネスモデルを構築するには、どんなアプローチが求められるのか。甲元氏はキーワードとして“経験経済”を挙げる。「革新的なビジネスを生み出すビジネスプラットフォームには、スピードやコスト、グローバルといった要素の他に、感動を価値として届ける経験経済が重要になります。そのためには消費者とのコミュニケーションやコラボレーションが不可欠です」。

 これまでの日本企業は「よい物を作って市場に提供する」というモノづくりのパラダイムでビジネスを進めてきた。しかし、広くネットワークでつながれたクラウドの世界では、顧客との双方向でのコミュニケーションによってこれまでにない価値を創造し、成長性の高いビジネスが生まれる。

 企業経営者は、クラウドでコストを削減するといった消極的な活用ではなく、リスクを抑えながらグローバルで成長性のあるビジネスを構築できる、次世代のビジネスプラットフォームとしてクラウドを捉えるべきだろう。その先には、これまで手付かずだった領域を切り開く、新しいビジネスが生まれる可能性が広がっているかもしれない。