「空洞化」や「技術流出」は大間違い

山口 義行 氏
(やまぐちよしゆき)
立教大学経済学部教授1951年愛知県生まれ。経済産業省中小企業政策審議会「企業力強化部会」委員、関東経済産業局「新連携支援」事業評価委員長として中小企業政策に関わるほか、企業経営者との勉強会を全国で開催。NHK総合「クローズアップ現代」「サキどり」、フジテレビ「とくダネ!」などのコメンテーター、BS11の「山口義行の中小企業新聞」ではメーンキャスターとしてテレビ番組作りに関わるなどメディアでも活動。近著『山口義行の¨ホント¨の経済』(スモールサン出版)など、執筆活動を通しても中小企業を応援している。

 一般に、企業の海外進出は国内産業の空洞化をもたらすとの懸念が強い。しかし、「それは大きな誤解です。むしろ積極的に海外事業を展開している中堅・中小企業ほど、国内でも雇用を増やしています」と語るのは中小企業サポートネットワーク「スモールサン」を主宰する立教大学経済学部の山口義行教授。  

  次ページ図は、2002年度に海外に直接投資を開始して09年度まで継続している企業と、1995~2009年度に一度も海外直接投資をしていない企業の国内従業者数の推移を比較したものだが、伸び率は前者が圧倒的に高い。

「海外進出といっても多くの場合、国内のリソースをすべて海外に持っていくわけではありません。むしろ海外ビジネスの発展によって国内の仕事量が増え、雇用を促すのです。国も経営者も、海外進出をネガティブに捉えるのではなく、もっと積極的に推し進めるべきではないでしょうか」

  とはいえ、国内の工場を賃金や地代の安い海外に移転させるという従来型の発想では、今後の海外進出で勝ち残っていくことは難しいと山口氏は言う。 

「近年、中国の賃金上昇を受けて、より低賃金なベトナムやカンボジアなどへ生産拠点を移す動きが見られますが、中国の拠点をすべて移転させるわけにはいかず、投資に無駄が生じています。

 また、得意先の求めに応じて海外進出したにもかかわらず、より低コストで技術力も上がってきている現地企業にくら替えされ、仕事を失ってしまうといったケースも珍しくありません。これまでのように、単に工場を海外移転させるだけという発想では、ビジネスが続かなくなる危険性が高いのです」