時代が求める「新しい学力」「新しい人間力」の育成に力を入れる海城中学高等学校。今年度から学校改革の新たな展開として、JAXAとの共同研究開発をスタート。学園の新しい顔となる「新理科館」も建設中だ。
JAXAのノウハウを生かし「非認知スキル」を向上させる
海城中学高等学校では、創立100周年を迎えた翌年の1992年から、「国家社会に有為な人材の育成」という建学精神の下、四半世紀にわたり学校改革に取り組んでいる。追い求めているのは、グローバル化が進み価値観が多様化する現代社会で求められる、「新しい人間力」「新しい学力」をバランスよく兼ね備えた人材である。
その取り組みの中で、今年度からスタートしたのが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同開発研究だ。これは、JAXAとSpace BD、Z会グループが行う「非認知スキルを向上させる教材の開発」に、日本で唯一の実践校として参加するもの。
非認知スキルとは、“主体性、多様性、協働性、学びに向かう力、人間性”など可視化が難しいスキルのことで、このスキルをどう評価し育成するかが、今、学校現場で課題になっている。ISS(国際宇宙ステーション)を主たる活躍の場とする現代の宇宙飛行士は、国籍や専門が異なるメンバーが、狭い空間の中でミッションを行う。対立や紛争が起これば全員の命に関わる。危機に対しては全員で協働し、問題解決に当たらなければならない。宇宙飛行士にとって非認知スキルは必須の資質なのだ。
JAXAでは、そうした非認知スキルに関する評価法や訓練法のノウハウが蓄積されており、それを学校教育の現場で活用することが、今回の共同研究開発の目的だ。同校では生徒たちが実際にJAXAの評価法を用いながら、非認知スキルの向上に取り組んでいる。
学園の新しい顔「新理科館」が2021年完成予定
この取り組みに加えて、一昨年度からスタートしているのが、課外特別講座である「KSプロジェクト」だ。未来(希望)につながる“原体験”となる文理融合の学びの場として、各教科のカリキュラムや通常授業の枠を越え、曜日・時間・場所・学年の制約なく実施。生徒たちの多様な“とがった”興味や関心を深掘りするディープな学びが展開されている。
学内で自己完結せず、外に開かれた講座であるのもこの講座の特徴で、例えば持続可能な開発について議論する「SDGsゼミ」では、ジェンダー班が国連大学で開催されたワークショップに男子校として初参加。男子の視点からジェンダー平等の実現に関する提言を行った。
この「KSプロジェクト」は、政府がポスト2020の教育改革ビジョンとして掲げるSTEAM(スティーム)教育の具現化でもあり、持続的な学習意欲を生み出すとともに、外部(偶然性)との“化学反応”を引き起こす創造的な知を育成する役割を担っている。
現在、同校ではそのSTEAM教育を充実させるため、21年夏の完成を目指して「新理科館」を建設中だ。地上3階、地下1階の建物で、物理・化学・生物・地学の専用実験室が設置され、自然科学の仕組みを横断的に体感できるオープンな環境が整えられる。時代を先取りする同校の学校改革は、ソフト・ハードの両面で新たなフェーズに入っている。
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