「世界を牛耳る素材113品目」で見る
日本素材メーカーの凄み

 これが、「世界を牛耳る素材113品目リスト」だ。

>>ダウンロードこちらから

 世界シェア首位の品目が並んでいるのが分かるだろう。

 その最たるものが液晶ディスプレーの材料である。すでに、“外側”のディスプレー製造の主体は日本から韓国や中国、台湾へ移ってしまった。だが、液晶ディスプレーを分解して“内側”をのぞいてみると、今なお日本の素材があふれている。

 基幹部材である偏光板のベースフィルム(PVAフィルム)や、その保護フィルム(TACフィルム等)の製造は、クラレや富士フイルム、東洋紡など、日本勢の独擅場だ。赤、緑、青をパターン状に塗布するカラーフィルター用の顔料も、緑で85%、青で55%と、DICが圧倒的な世界シェアを誇る。

世界に誇れるディスプレー材料(リスト一部)

社名 製品 世界シェア(概算) 知って楽しいうんちくの世界
東洋紡 液晶ディスプレー向け
偏光子保護フィルム
(ポリエステルフィルム)
100% 偏光板の偏光子(ベースフィルム)の保護フィルムといえばTACフィルムが主流だが、ポリエステルの保護フィルムはTACと違って透湿性が低く、製造過程でゆがみにくい。東洋紡は屈折率を極限まで上げるという逆転の発想でポリエステルながら光を真っすぐ通すことに成功。偏光子保護フィルム全体で見ても30%のシェアを獲得している。
クラレ 偏光板のベースフィルム
(光学用のポリビニルアルコール
80% 偏光板フィルムのベースフィルムとして使われている。30年以上前から市場を席巻しており、世界シェア1位。他に同様の製品を作れるのは三菱ケミカルだけ。
DIC カラーフィルター用の有機顔料 グリーン
85%
液晶ディスプレーは、赤、緑、青をパターン状に塗布したカラーフィルターを、バックライトの光を透過させることで画像を表示する。この、緑と青の大部分に使われているのがDICの顔料。突出した輝度とコントラストにより、バックライトの光量が少なくても高画質な画像を再現できるところが支持されている。
カラーフィルター用の有機顔料 ブルー
55%
富士フイルムホールディングス 液晶ディスプレー向け
トリアセチルセルロース
(TAC)フィルム
70% 液晶ディスプレーに欠かせない偏光板のベースフィルムの保護フィルム。TACとは、セルロースの加工技術を使って作られた化合物。もともとは写真フィルムの基底となる透明で薄い膜(支持体)として作られていた。セルロースは天然素材で異物が混入しやすいが、富士フイルムは異物を除去する技術を確立。光を真っすぐに運ぶ透明性と平滑性をかなえている。

汎用品に見えて技術の粋を集めた
マヨネーズのボトル

 ものづくり大国・日本の象徴とされた電機・基幹デバイスメーカーは、グローバル競争から脱落して久しい。にもかかわらず、なぜ素材メーカーだけは今なお世界の最前線で勝負できるのか。その秘密は、四つのキーワードで説明できる。以下の具体例で順番に説明していこう。

 Keyword (1)「クレイジー」異常なまでの顧客志向

 岡山県倉敷市、水島臨海工業地帯。工業化のきっかけをつくった三菱重工業の工場を譲り受けた三菱自動車や、倉敷を発祥の地とするクラレが名門とされ、ほんの少々、肩身を狭そうにしながらも、三菱ケミカルの岡山事業所では、あるユニークな製品がせっせと作られている。

 「エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)」と名前はいかついが、マヨネーズのボトルやカレールーの容器などに使われる身近な高機能プラスチックである。一見、ただの汎用容器に思えるが、これには技術の粋が詰まっている。

 酸素をはじめとするあらゆるガスを通しにくいのが特徴で、防腐剤に頼らずとも食品を長持ちさせてくれる生活必需品だ。ちなみに、スーパーのレジ袋で同じように空気の侵入を防ごうとすると、EVOHなら10μmで済むところ、10cmもの厚みが必要となる。

 今回、その加工技術開発センターへの“潜入”が許された。そこに広がっていた空間こそが、まさにクレイジーだった。訪問前は、ちょっとした研究ラボのようなものだろうと高をくくっていたのだが、行ってみると、幾つも機械が並んでいる。EVOHの製造ラインではない。EVOHを使って、実際に食品包装材などを試作してみる加工機械が並んでいるのだ。

三菱ケミカルHD岡山事業所三菱ケミカルの岡山事業所は、国内最大級のエチレンプラントがあることで有名だが、世界で2社しか作れない高機能プラスチックも製造している

 「数えたことなんてないけれど……大きいものだけで10台くらいありますかね」(小野裕之・三菱ケミカルソアノール事業部加工技術開発センター長)。時にはここで、顧客に代わって製品の初期評価まで行うこともあるという。

 何を隠そう、EVOHは作れる企業が、世界でクラレと三菱ケミカルのほぼ2社しかない。そんな寡占市場でも、「カスタマーズ・ラボ」と銘打って顧客志向を貫き通しているのである。

 顧客志向というと生ぬるく感じるかもしれない。しかし、日本メーカーが提供するカスタマイズのレベルは、時に世間が想像するであろう域を超えている。積水化学工業が世界トップシェアを誇る液晶ディスプレー向けの「シール剤」で説明しよう。

 シール剤とは、湿気に弱い液晶を外気から守るディスプレーの接着剤だ。ただ隙間をふさげばいいというものではないから難しい。液晶のみならず、ガラスやカラーフィルターなど、接触する全てのものと相性が良くなければならないからだ。

 だが、素材メーカーは、顧客から完成品の構成部材の仕様を明かされないのが一般的だ。つまり、顧客が使っているカラーフィルターなどがどんなものかはっきりしないまま、それに合うシール剤を推測して提供しなければならない。

 しかも、テレビやスマートフォンといった電気製品は、製品ライフサイクルが短く、次々に新製品が発売される。対応力の高さは絶対で、完璧に顧客の要望に合う材料に仕上げるまでに与えられるチャンスは通常、たったの「1~2回」(村松隆・積水化学高機能プラスチックスカンパニーエレクトロニクス戦略室長)だ。

 その中で積水化学は、新たな機能を付加した最先端の技術開発まで行うわけである。足元では液晶のみならず、折り曲げたり丸めたりできる有機EL向けシール剤の開発にも乗り出している。顧客情報を収集して「痒い所に手が届く製品」を提案し続けられる、クレイジーなほどの根気がなければ成り立たない商売だ。

次のページ

次の飯の種を探し続けるタフな営業力も日本素材の強み

TOP