次の飯の種を探し続ける
タフな営業力も日本素材の強み
Keyword (2)「ストイック」先端技術の飽くなき追求
自明のことだが、素材は用途があってこそ価値が出る。世界の先頭を走るためには、最高品質の製品の開発に取り組むのはもちろんのこと、「次なる勝ち馬」も探し続けなければならない。例えば、住友化学の「高純度アルミナ」は、1981年に量産化を開始してから約40年で、主要納入先が4度も変わった。
最初の活用先は、高速道路のトンネル内の照明として使われているナトリウムランプの発光管だ。その後、80年代半ばごろに、当時一世を風靡したビデオテープで花開くことになる。クリアな映像を映し出すための材料として採用され、日系ビデオテープメーカー全社向けに納入、完全制覇をやってのけたのだ。
2000年代に入ると、韓国のエレキ各社が仕掛けたフラットパネルディスプレーの光源であるLED(発光ダイオード)に採用されて急成長した。このとき、拡大するLED市場に心躍らせた中国・韓国勢が住友化学に追い付け、追い越せとどっと新規参入してきたのだが、価格競争が激しくなる頃には住友化学は次の軸足を探し当てていた。リチウムイオン電池だ。まだ自動車への搭載が夢だった頃の話である。
では、次なる飯の種とは? 「内緒。でも、もちろん考えてます」(渡部知之・住友化学無機材料事業部長)。ヒントは、次世代移動通信システム「5G」関連向けだという。
住友化学によれば、新しい顧客の心をつかむためにはファーストインプレッションが大事らしい。「お見合いみたいなものですよ」と、渡部事業部長。「顧客の『何となくの要求』に極力近づけたものを最初から提案できるかどうか」(渡邊尚・住友化学無機材料事業部高純度アルミナ部長)が生命線なのだという。的外れな製品を提案しようものならば、袖にされてしまう。ストイックに過去の知見を蓄積する企業でなければ、早晩、競合に切り替えられてしまうだろう。
もっとも、素材各社にとって世界の最先端製品に一番乗りする“先行者メリット”は大きい。材料の不備は、顧客の歩留まりの悪さや消費者からのクレームに直結するため、顧客は「実績重視」になるものだからだ。先行者であれば顧客からの相談も持ち込まれやすい。だからこそ、日本の素材メーカーは先行者のアドバンテージを武器に常に最高峰を目指している。
「鼻薬のようなもの」で勝負できる
けなげさが侮れない
Keyword (3)「マニアック」誰もやらないニッチ市場の攻略
冒頭のフルヤ金属が最たる例だろう。同社が有機ELの1次材料で世界を席巻できたのは、融点が約2500度にもなり、酸にもアルカリにも溶けないイリジウムという、“普通の会社”が持て余すレアメタルの精製、加工に約40年をささげてきたからだ。
素材業界ではよく、「鼻薬みたいなもの」という表現が使われる。要は、「子どもをなだめるために与える菓子」といった程度のちょっとしたもの、ということだ。市場は大きくないかもしれないが、生産効率のアップなどになくてはならない“面倒なもの”を、製造工程の高度化などで何とか採算ラインに乗せるけなげさが日本の素材業界にはある。
Keyword(4)「ジャパンクオリティー」納期、守秘義務、工程の順守
最後のキーワードは、「ジャパンクオリティー」。素材メーカーが「クレイジー」「ストイック」「マニアック」の三つの強さを実現できる原動力ともいえるものだ。
真面目な国民性を持つ日本人は、納期、守秘義務、工程など、決まり事を「順守すべきもの」と考える。実はこのマインドはどこの国にも共通してあるものではない。「非常事態でも残業してくれない」「すぐに他社に転職して秘密事項をばらされた」「塩酸が入った容器を蹴って運ぶ」「配管の中に工事道具を忘れてきた」――。海外進出して国民性の違いに阿鼻叫喚した日系メーカーの事例は枚挙にいとまがない。
だからこそ、日本が強くなった素材は多い。例えば今回、対韓輸出管理の強化が決まった「特定3品目」がそうだ。その一つであるフッ化水素は「劇物のため、適当に管理すればたちまち事故につながる」(フッ化水素メーカー幹部)。
レジストも、「原材料の混ぜ方ひとつで品質が変わってしまう、ものすごく繊細な製品」(東京応化工業幹部)であり、工程管理をきちんと行わなければ高機能品は作れない。「われわれが作っている製品は、天ぷらに例えると分かりやすい」(素材メーカー関係者)。素材は、同じ材料と製造機械を使っていても、工程の差で全く仕上がりが異なるものなのだ。




