ボディーブローのように効く
「制裁3品目」の意外な打撃
素材メーカーは、いまや日本の製造業の屋台骨といっても過言ではない。特定3品目は、日本の素材が強いからこそ輸出管理強化の対象として“ロックオン”されてしまった経緯がある。
問題は、渦中の業界となった化学メーカーに政府側から「事前ヒアリングすら一切なかった」(大手化学メーカー首脳)ことだろう。3品目の該当企業の幹部でさえ「寝耳に水だった」と語っており、「一部企業は経済産業省に怒鳴り込みに行っている」(化学業界関係者)というくらいだ。

特定3品目は、日本政府が思っている以上に素材業界にとって重要な製品だ。
「フッ化ポリイミドって何だ……?」。実は3品目の一つであるフッ化ポリイミドは、企業によってはポリイミドの営業担当者ですらこう漏らすほどの知られざる最先端製品だった。各社ともまだ量産に入っていない開発段階の製品で、「韓国サムスン電子などが次世代の折り畳み式スマートフォンに採用しようとしている材料」(電子材料に詳しい化学業界関係者)なのだという。
レジストも同様で、輸出管理強化の対象となったのは極端紫外線(EUV)用であり、まだ主流とはいえない先端レジストである。
つまり、国内製造業の競争力の源泉ともいえる超高機能材料を「特定3品目」に含めたことで、韓国側を「次世代製品の開発が、日本の方針ひとつでストップしてしまうかもしれない」と震撼させたわけだ。そして、恐れおののいた韓国メーカーは、日韓をまたぐサプライチェーンが盤石なものではないと気付いてしまった。
となれば、韓国企業は長期戦略として、素材の国産化と調達ソースの代替ルートの開拓により、“日本勢外し”に動くしかない。将来的に、思い返せば日韓連合崩壊の転換点は今だった、ということにもなりかねない。韓国のダメージは、ブーメランのように日本の素材メーカーに跳ね返ってくる可能性がある。
最も恐れるべきことは、素材の国産化を進めている韓国や中国による日本企業の買収であろう。すごみの源泉に日本人の国民性まで含まれているのだとすれば、エンジニアごと日本企業を買ってしまえばいい。
さかのぼること2年半。化学国内トップの三菱ケミカルホールディングス(HD)が傘下の事業会社3社を統合し、パレスホテル東京でその発足披露パーティーを開催したときのことである。身動きが取れないほど集まった出席者の前で、日本商工会議所の三村明夫会頭(日本製鉄相談役)が、小林喜光・三菱ケミカルHD会長との思い出話として、笑いながらこんなことを語った。
「以前、『鉄鋼業界では再編が進んだ。化学業界も、もっと再編した方がいいんじゃないですか』って提案したことがあるんですよ。でも、『鉄みたいに単純なものを造ってるわけじゃないんだから(安易に再編したからってシナジーが出るわけじゃない)』って言われちゃって」
三村氏が再編を勧めたくなるのも当然だ。日本の化学業界には、小粒の企業がごろごろと並び、三菱ケミカルHDですら売上高は約4兆円。世界ナンバーワンの独BASFの半分程度の規模しかない。
それでも小林氏が三村氏の提案を一蹴できたのは、その言葉の通り、化学を代表とする日本の素材メーカーが“複雑”なものを作って世界の日常を支えているという自負があるからだろう。
だが、日本が輸出管理に“政治色”を持ち込んだことで、そんなユートピアが脅かされている。いま一度、「世界を牛耳る素材113品目リスト」を見てほしい。日本の素材メーカーは小粒なばかりか、一様に割安だ。今回シェアが判明した37社(上場企業のみ)のうち、実に27社のPBR(株価純資産倍率)が1倍を割っているのである(8月28日時点)。
素材大国ニッポンに転落の危機がひたひたと迫っている。
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