日韓激突!悪夢シナリオ#7

全7回でお届けした「日韓激突! ものづくり日本の悪夢」特集の最終回。50年の歳月をかけて現在の形に落ち着いた「日韓製造業の最強タッグ」が揺らいでいる。日本を共通の“仮想敵国”としたことで、反目し合っていた文在寅政権と韓国産業界が歩み寄り、素材・電子部品の調達網からの「日本外し」に動き始めたためだ。そして、日韓対立を不敵な笑みを浮かべながら注視しているのが、中国である。ひたひたと、「ものづくり日本の転落」の危機が迫っている。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

トヨタに勝つために!
韓国・現代自動車の方針転換

 「安倍(晋三首相)さんは恩人だよ。韓国の弱みを気付かせてくれてありがとうって思っている。このまま韓国メーカーが素材や高機能部品を造れなければ、一生、韓国・現代自動車はトヨタ自動車に勝てないことになっちゃうからね」

 現代自動車のある社員は、事もなげに言う。7月の対韓輸出規制によるサプライチェーン(部品供給網)の寸断リスクを、むしろチャンスに変えようというのである。

 韓国サムスングループの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が輸出規制対応で緊急来日した後に、サムスンに続く韓国財閥2位、現代自動車グループの次期総帥と目される鄭義宣(チョン・ウィソン)首席副会長もまた、日本を訪れていた。来日の主な目的は、半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスなど重要サプライヤーを視察し、今回の輸出規制が現代自動車のサプライチェーンに与える影響を直接、見極めることにあった。

 だが、現代自動車の社内で検討されているのは、今回の輸出規制をどう乗り越えるかといった弥縫策だけではない。中長期的には、戦略的な素材・部品の調達先について、今までよりも日本への依存度を引き下げる「日本外し」の抜本策まで本気で考え始めているのだ。

 例えば、現代自動車が次世代エコカーの本命として推す燃料電池車(FCV)の基幹デバイスがそうだ。FCVに搭載されるFCVスタックや電動化部品はこれまで日本製に依存していたが、「こうした先端部品、先端素材については、優先して国産化を加速させる方針だ」(冒頭の現代自動車社員)という。

 現代自動車以上に、本気で「日本外し」を画策しているのが、サムスングループの中核企業、サムスン電子だ。規制対象の「特定3品目(フッ化水素、EUV〈極端紫外線〉レジスト、フッ化ポリイミド)」の全てが、サムスンの半導体や有機ELの製造に欠かせない素材なので、サムスンが警戒するのも無理からぬ話だった。