万全の事前対策で「対韓国輸出規制」に踏み切ったはずだった日本。韓国にお灸を据えてやろうという程度の規制強化が、韓国側の疑心暗鬼を生み、日韓関係修復の着地点はまったく見えなくなっている。50年かけて構築した「最強の日韓タッグ」も揺らぎつつある。輸出規制というトリガーを引いた日本は、パンドラの箱を開けてしまったのかもしれない(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
選ばれた理由が判然としない
輸出規制3品目
「ポリイミドではなくて、フッ化ポリイミド? 一体どこのメーカーがつくっているんだ?」「レジストの中でも、どのレジストが規制対象になるのか?」
7月1日、日本政府が韓国に対する「輸出規制の強化」を決めると、たちまち日本の素材業界は上を下への大騒ぎになった。どの品目が規制対象に引っかかるのか。将来的には、韓国に対する制裁レベルがさらに上がるのか。部材の供給先である韓国メーカーは「日本外し」の調達に打ってでるのか──。韓国向け品目の確認作業に追われたのである。
今や、日本の素材・電子部品・装置メーカーは、日韓をまたぐ強固なサプライチェーン(部品供給網)にガッチリ組み込まれてしまっている。だからこそ、日本が輸出規制を決めた背景に、「政治的意図」があると汲み取るや否や、韓国側は猛反発した。
その対抗措置として、輸出管理の優遇国から日本を除外するにとどまらず、韓国は軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄まで決定。日韓対立の領域が「歴史問題」から「貿易」、そして「安全保障」へと拡大してしまった。今のところ、日韓の報復合戦が収まる気配はない。
韓国にお灸を据えてやろうくらいのジャブが、GSOMIAの破棄という超ド級のブーメランで返ってくる──。日韓関係がここまでこじれてしまうことになろうとは、輸出規制を決めた官邸・経済産業省にとっても大いなる誤算だったのではないだろうか。
というのも、「昨年以降、経産省は米中のファーウェイ・ショックをお手本にしながら、どの品目が滞るとどんな影響が出るのか探っている節があった」(半導体材料メーカー幹部)からだ。そのため、輸出管理を見直すことで、韓国に心理的なダメージを与えることはあっても、日韓のサプライチェーンが揺らぐことになる程のシナリオを想定していなかったようなのだ。
本稿では、輸出規制が日本の製造業にいかに深刻な危機をもたらすことになるのか、独自ランキングと独自データを使って解説する。
ゼロからおさらい
輸出規制とは何か
その前に、まずここでは、輸出規制の強化についてゼロからおさらいしておこう(輸出規制については、『♯3【日韓激突!3分理解】「制裁3品目」に見る日本製造業の凄みと脆さ』を参照。9月3日配信)。
政府が講じた措置は、二つある。
一つ目は、韓国をいわゆる「ホワイト国(グループAへ名称変更)」から格下げする。韓国へ輸出する手続きについては、多くの品目に「包括許可(特定の仕向地・品目ならば手続き業務を簡素化できる)」が認められていたが、今後は一定の品目でしか認められなくなり、「個別許可」が必要な品目が増える。
二つ目は、特定3品目(フッ化水素、E U V〈極端紫外線)用レジスト、フッ化ポリイミド)についても輸出手続きが厳格化される。
ちなみに、官邸や経産省は今回の措置について、制裁色の強い「輸出規制」ではないという立場だ。韓国側に不適切な事案が発生しているため、あくまでも「輸出管理の見直し」という制度変更で貿易を正常化させようとしているという見解だ。さらに本音ベースでは、韓国に対しては従来が“下駄”を履かせてホワイト国として対応していただけで、輸出管理の実態に合わせて元に戻すだけ、とでも言いたげだ。
とにかく、韓国への制裁ではなくて、制度の見直しであるとの一点張りである。
だが、韓国のみならず、日本のビジネスパーソンでも、この見解を100%鵜呑みにする人は少数派なのではないだろうか。
むしろ、産業界では、輸出管理の見直しの背景にある「政治的意図」を敏感に感じ取っている。この政治的意図とは、サムスングループら韓国財閥の急所――日韓にまたがるサプライチェーン――を狙うことで文在寅(ムン・ジェイン)政権に揺さぶりをかけようというものである。
世耕弘成・経済産業大臣は、今回の措置を決めた初動の段階で、「元徴用工問題について、(韓国側から)G20までに満足する解決策が示されず、信頼関係が損なわれた」とツイッターで明かしており、輸出管理に“政治的要素”を挟んだことを自らさらしてしまっている。