技術大国日本の維持のみならず、社会をリードする役割への期待もあって、理工系人材へのニーズは増している。その一方で、受験科目数が多く、必要な履修範囲も広いため、理工系大学への進学をためらう受験生も少なくないという。理工系大学で学ぶメリットと大学の最新動向等について、「理系ナビ」の渡辺道也編集長に聞いた。

 

 一般に理工系学生は企業からの評価が高いとされるが、実際のところはどうなのだろう。「理系ナビ」の渡辺道也編集長は、「理工系学生は、研究や論文執筆など、卒業までに多くの課題をこなさなければならないため、総じて真面目で粘り強いといわれます。そうした点以外にも、文系学生とは異なる特長を備えています」と明かす。

 もとより、ITやバイオサイエンス、機械、化学など、研究によって修得した専門性が、理工系学生の最大の強みと考えられる。加えて、研究活動によって培われた論理的思考力や数理解析能力などが、ビジネスの場で広範囲に活用できるものと期待されているのだ。

社会人としての資質を伸ばす
“理工系的学生生活”

「仮説・推論を組み立て、実証する手立てを考え、実行した後に結果を検証し、次の推論や手立てを考えていく。実はこうした研究のプロセスはPDCAサイクルそのものです。学生生活でこれを体得している理工系の人材は、企業にとっても魅力的なのです」

『理系ナビ』編集部・
渡辺道也 編集長
『理系ナビ』は、理系学生のためにインターンシップ・就職情報を発信。年3回発行の冊子のほか、ウェブサイトなども運営する。理系学生たちにはおなじみの存在で、開催する各種セミナーの人気も高い。

 大学4年卒業後の進路を見ると、「理系の6~7割程度は大学院修士課程に進学しています」。専門知識を生かして就職するには、修士以上を要件とする企業も多い。とはいえ、学部卒人材へのニーズも根強いと、渡辺編集長は指摘する。

「例えばメーカーの営業職では、機械や素材といった商材の特徴をしっかり理解できる人材のほうが、商品説明の場面などで取引先などとのコミュニケーションが円滑に進むといわれています。もちろん、文系人材であっても入社後の研修や勉強で知識を得ることはできますが、即戦力としては理工系に分があると思います」。メーカーのみならず金融系企業も、数理能力に長けた理工系人材の採用に意欲的だという。

 このように、理工系学生の将来には明るい道が開けているように思われるが、気を付けておきたい面もある。「大学での研究が高度に専門化するあまり、学際的、業際的な感覚が身に付かず、社会に出てから苦労する学生もいるのです」と、渡辺編集長も注意を促す。

 こんな事態を避けるには、学生自身の姿勢と取り組みが大切だという。「大学院への進学を決めていたとしても、学生向けの業界研究セミナーに参加したり、社会人と話をする機会を作ったりと、積極的に社会との接点を持ってほしいですね」。

 もちろん大学側も、社会ニーズに敏感に対応している。地域が抱える課題に取り組む研究が行われたり、自治体はじめ地域の企業等と連携したプロジェクトに熱心な大学も増えた。これらの研究やプロジェクトに参加することで、視野がより広がるなど、社会人として必要な資質の獲得にもつながることだろう。

親は子どもの関心を
社会に向けさせるサポートを

 新設の学部、学科、コースなどもまた、現代の社会ニーズを色濃く反映していることが多い。これまでの学部・学科の枠にとらわれない学際的なものが多くなっている。一方で、伝統文化を科学的に探究する学科などもある。「将来の仕事に直結する資格が得られるコースも人気が高い」と、渡辺編集長。医療系や建築などはもとより、樹木医やヘリコプターパイロットの資格取得を目指すなど、探してみると多様な学科、コースが存在するものだ。

 大学選びについて渡辺編集長は、「親の価値観を子どもに押し付けないで」と、呼びかける。「社会の変化は著しい上に、企業や社会からの評価と入試偏差値が一致しないケースも多いのが実情だからです」。

 むしろ、理工系人材の進路が比較的堅調なことを考えると、子ども自身が関心を向ける分野で4年間、あるいはそれ以上、しっかりと勉強する環境が得られるかを重視したほうがよさそうだ。「好きなことをトコトン追究するうちに、科学的なものの見方、考え方が身に付くわけで、これが学生生活最大の成果となるはずです」と、渡辺編集長も言う。

「親御さんとしては、今の仕事の様子など自分自身について語る機会をつくって、社会に関心を向けさせることが重要では。お子さん自身が納得のいく選択ができるよう、そっとサポートしてあげてください」