定期預金を解約して
消費しようとするとどうなるか?

 これを具体的な例で考えてみよう。普通、サラリーマン家庭が何か大きな買い物をするのは、一体どんな時だろうか。まとまったお金が入った時、例えば定期預金の満期やボーナスをもらった時だろう。特にボーナスで大きな買い物をするというのは、最もありがちなパターンだ。

 長年使っていた冷蔵庫やテレビが、そろそろ買い替えを検討するようになってきたとしよう。ところが、壊れて使えなくなってしまったのでなければ、すぐに買うというケースはあまり多くない。多くの場合「ボーナスが出るまであと3ヵ月だからそれまで待った方がいいのではないか」という会話が交わされることが多いだろう。逆に言えば、“ボーナスで大きなものを買う”というのは家庭内でコンセンサスができていることなので、多くの家庭では割と抵抗なく実行することができる。この場合、ボーナスというキャッシュを消費勘定と貯蓄勘定に分け、消費勘定から支出をすることになる。

 そこで発想を根本的に変えてみてはどうだろうか。一体どうするのかというと、ボーナスでは一切買い物をせずに、全額定期預金などに入れて貯金をしてしまうのだ。「でもボーナスで買い物をしないのだったら、いつ買うのだ」と思われるかもしれないが、答えはきわめて簡単で、ボーナスは全額定期預金するけれど、それまでに持っていた別の定期預金を解約して買うのだ。つまり貯蓄勘定から引き出して消費するわけである。さて、こうなると一体どんな感情が生まれてくるだろう。

 ボーナスで買うというコンセンサスができていたからこそ、それを貰ったら右から左へと回して使ってしまうことができるのである。つまりボーナスの一部を消費勘定に入れて、そこから出して消費することには何の心理的抵抗もない。ところが、ここで今まで持っていた定期預金を、それも満期がきていないものを解約しなさいということになると、それは貯蓄勘定から引き出して消費に回すわけだから、かなり心理的な抵抗感が大きくなる。

 今まで何の議論もなく、当然のようにボーナスで買っていた品物が、「定期を解約してまで買う価値があるだろうか」という新しい議論が生まれてくるのだ。そうすると「やっぱりもう少し待とうか」ということになる可能性が高い。あるいは仮に買うにしても価格や性能を、もっと事細かに調べなおしたりするはずだ。結果として「良いか、悪いか」ではなく「必要か、不要か」という論点で判断することができ、衝動的に無駄な買い物を防ぐことにもなる。

 「でも実際に定期を解約するのなら、中途解約になるから損じゃないか」と考える人もいるだろう。しかしながら今のような超低金利の時代であれば、普通預金も定期預金もほとんど利息に差はないので、中途解約して利息が大きく減るというデメリットはほとんどない。ところが、それでも“定期を解約する”というのはかなり心理的な抵抗感の大きいことだ。これこそがまさにメンタル・アカウンティングを利用する狙いなのだ。

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家計管理の手法、「袋分け」は有効か?

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