アップルとグーグルの“代理戦争”
アップルのiPhoneとiPad、サムスンのギャラクシーとギャラクシータブ。いずれも、世界市場で大きな売上規模を持つ両社の看板商品です。しかも、単なる知財紛争の枠を越えた根深い問題があります。それは、OSの覇権をめぐる争いです。
サムスンの端末はOSとして、グーグルのAndroidを採用しています。一方のアップル側はiOS。グーグルはAndroidを無償公開しており、サムスンなどの端末メーカーがこれを使って端末を供給しています。アップルのiOSはプロプライエタリと呼ばれ、非公開のソフトウエアです。
オープンのAndroid対プロプライエタリのiOS。今回の知財紛争は、そのどちらがデファクトを握るかという戦いでもあります。グーグル対アップルの“代理戦争”と言うこともできるでしょう。知財分野の中だけの争いであれば和解するケースも多いのですが、今回の隠れた主役はOSです。そのOSはスマート端末市場を制するカギですから、お互いに譲るわけにはいかないでしょう。
そこで、グーグル陣営とアップル陣営は、猛烈な勢いで特許の買収を行っています。2011年7月には、アップルとマイクロソフト、ソニーなどの企業連合がノーテルネットワークスの保有する特許群を45億ドルで取得しました。そこには、無線技術などに関する約6000件の特許が含まれていると言われます。
同年8月には、グーグルがモトローラ・モビリティを125億ドルで買収。モトローラ・モビリティは約1万7000件の特許を有していると報じられています。こうした両陣営の動きを受けて、無線やタッチパネル関連の特許は非常に高騰しています。
PC市場が急成長していた時代、マイクロソフトはOSのデファクトスタンダードを握ることで市場を支配しました。いま、デバイスの主役はスマートフォンやタブレット端末にシフトしつつあります。
新しい時代のリーダーの座につくのは誰か――。アップルとサムスンの知財紛争は、世界を舞台にした壮大な競争の一断面です。逆に言えば、この断面を通じて壮大な競争の全体像を知ることもできる。それは、知財と競争戦略をつなぐ高度な知的作業です。
また、アップルの訴訟戦術にも見られるように、デジタル時代における知財のあり方、扱い方は大きく変化しつつあります。後から振り返れば、本件は知財の歴史における大きな節目と位置づけられるかもしれません。
グローバル企業の知財戦略は、ますます複雑化・高度化しています。これに対して、日本企業の多くは依然として特許を中心にした考え方にとらわれているように見えます。グローバルジャイアントが正面からぶつかる知財紛争を受けて、日本企業において、知財戦略を再構築しようとの機運が高まることを期待しています。