生業の再定義と同時に、多くの企業に求められているのが、デジタル・トランスフォーメーションへの対応だ。自前主義による変革は限界に直面しており、企業の内部知と外部知を新たに結合させるオープンイノベーションが盛んになっている。だが、異業種交流会の域を出ない取り組みから、イノベーションは生まれない。肝心なのは、なぜイノベーションを起こす必要があるのか、人間の豊かさや働きがいとは何かを、とことん自問自答し合うことである。
「私たちのプログラムでは、生活者の立場で未来のビジネスを展望するトレーニングを徹底的に行います。異業種の人たちに混じり、ひとりの生活者として思考し、発言し合うのです」。そんなぶつかり稽古のようなトレーニングをしていると、参加者は「いかに自社の手続きでしか考えてこなかったか」ということに気づくという。「それは、創造的自己破壊の体験であり、そこをくぐり抜ける中で、創造性豊かな発想体質が養われるのです」
定形のパターンやフォームを持った仕事は、やがてAIを中心としたテクノロジーが担ってゆくだろう。そうなった時、人間が深層学習すべきは、「すべての事業・製品・サービスの目的、つまり新しい豊かさ、幸せ、快適、感動」であり、「人間にとってあるべき暮らしとは何か」という根本的な問いを粘り強く考え抜く思考態度こそが、AI時代の人間に必要とされるナレッジである。そして、その本質は「人間が人間を慮ること」と、嶋本氏は断言する。
五感全体で反応する
発想体質をつくる
博報堂生活者アカデミーは2018年1月、「ビジネスリーダー調査」を実施した。その中で「自分の会社・団体にとって、今後重要になるキーワード」を問うたところ、経営者と管理職ともに1位「生産性」、2位「発想」、3位「イノベーション」という回答数となった。対照的に、MBAなどの専門的なビジネススキルは低位に留まった。
これは、リーダー層が豊かな発想とイノベーションの必要性を認識していることの表れといえる。だが、創造性を獲得することは、従来型のスキルを習得するのとはわけが違う。
「ゴルフのドライバーショットは、頭で理論を覚えただけでは飛距離は伸びない。何度もスイングを繰り返すこと以外に鍛える方法はありません。発想も同じことで、日常生活の中で何か違和感を覚えたら、その理由を考えてみる。面白いと思ったら、なぜ面白いのか考えてみる。その鍛錬の積み重ねによって、五感全体で反応するような『発想体質』がつくられていくのです」
個人的体験や主観的な想い、自分の五感によって独創のヒントを見出し、粘り強く思考し続ける。一朝一夕にはいかないが、そんな発想を習慣化させることが、大胆でユニークな創造性を発揮する人材の育成につながる。