原発の新増設、リプレースに
政府は消極的なまま
菅義偉首相は50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする方針を打ち出し、脱炭素社会を実現する手段として原子力発電所の再稼働を進める意向を示している。一見すると、原発を運営する大手電力会社やプラントメーカーにとって追い風の状況である。
ところが、大手電力会社もプラントメーカーも政府のある方針に肩を落としている。それは、原発の新増設、リプレース(建て替え)についての方針だ。
菅政権が9月に発足した後、原子力行政を所管する梶山弘志経済産業大臣と経済産業省資源エネルギー庁幹部らは激論を交わした。その焦点は、前回のエネルギー基本計画で盛り込まなかった原発の新増設、リプレースを21年からの第6次エネルギー基本計画に盛り込むか否かだった。
中でも原子力政策課の幹部らは、脱炭素社会の実現に向けて原発の新増設、リプレースの必要性を梶山大臣へ強く訴えた。しかし、梶山大臣は「原発の再稼働を積み重ねることで国民の信頼を得る。いきなり新増設、リプレースを掲げても理解を得られない」と既定路線を踏襲する方針を譲らなかった。
これで趨勢は決まった。菅首相の盟友である梶山大臣の意向は極めて重かった。菅首相は臨時国会で原発の新増設、リプレースについて野党から問われると、「現時点で想定していない」と明言した。
原発は国策民営であり、政府の方針がノーと決まれば、大手電力会社やプラントメーカーが独断で原発を造ることはリスクが高い。
原発に限らずメーカーに在籍する技術者たちにとって、“ものづくり”に携われないことほどつらいことはなく、新たな技術開発に取り組まない状態は生殺しに等しい。
政府は、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故を受け、当面は国内で原発を新設するのは難しいとみて、原発の人材育成と技術継承を狙い、経済成長戦略の一つとして原発の輸出を掲げてきた。しかし、下図の通り、いずれの輸出戦略もことごとく失敗した。
「原発は終わった」。東芝のある元ベテラン技術者はそう見切りをつけて同社を去り、エンジニアリング会社へと転職していった。
廃炉仕事で食いっぱぐれないが
原発プロジェクトは国内外でゼロ
原発の新増設、リプレースが当面は行われないからといって、日立製作所、三菱重工業、東芝といった原発メーカーが原発事業から撤退するわけではない。「バックエンド」という食いっぱぐれない仕事があるからだ。
バックエンドとは、原発の“後始末”である廃炉作業のことだ。エネ庁によると、日本では福島第一原発を含め、24基の原子炉が廃炉を決めている。
これらの原子炉は廃炉作業に入り、その作業は完了まで最低でも30~40年の長期に及ぶ。廃炉作業を請け負うプラントメーカーはその間、安定した収入が見込め、原発事業そのものは“安泰”なのだ。
バックエンドに対する学生側の関心は非常に高く、メーカー側も前述の企業説明会で、福島第一原発の廃炉作業の取り組みをアピールしていた。しかし、これは新たな原発を造りたいという夢に応えるものではない。
東日本大震災以降、国内の原発メーカーが関わる原発プロジェクトは国内外でゼロ。一方で、後発組である中国やロシアのメーカーが世界の原発プロジェクトを次々と受注し、原発ビジネスを席巻し始めている。
最新鋭の原子炉技術開発でも、米国、中国、ロシアが先頭を走る。中国の原発ビジネスに詳しいジャーナリストの倉澤治雄氏は「日本で最新鋭の原子炉でも、中国の最新鋭の原子炉『華龍1号』の技術水準には遠く及ばない。新型炉の開発でも後れを取っていて厳しい状況」と指摘する。
日立、三菱重工、東芝が原発メーカーとして生き残る道は細り切っている。
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