日立製作所の東原敏昭社長がインタビューに応じ、「コロナショックで最も影響を受けるのは自動車機器事業である」との認識を示した。また、中期経営計画の目玉である「2兆〜2.5兆円の成長投資枠」の実行については、近い将来での大型買収の可能性は否定した。投資を抑制させる中、日立はコロナ禍をどのように乗り越えようとしているのか。特集『電機・自動車の解毒』の羅針盤なき経営(1)では、東原社長の経営戦略に迫る。
割安でも大型のM&Aはしない
2.5兆円の投資枠は慎重に活用
――今回のコロナ危機によって、世界経済はどう変わるでしょうか。
新型コロナウイルスが発生する前から、米中貿易摩擦やBrexit(ブレグジット。英国のEU離脱)が起きるなど自国第一主義が強くなっていました。コロナは、各国が自国の国益ばかりを追求していて本当にいいのかと、警鐘を鳴らしているのだと捉えています。
国同士の利害もあるでしょうが、コロナを終息させるのに世界が一致団結しようという機運が出ることを期待するし、そうしていくのがわれわれの使命ではないでしょうか。コロナの特効薬やワクチンの開発も、世界が連携して加速する必要があります。
グローバル経済の停滞は、特効薬やワクチンができるまで、相当長く続くという認識でいます。日本では9月末くらいまで小康状態が続くのではないか。それ以降も12月、来年1月ぐらいまでは尾を引くでしょう。
――コロナは日立製作所の事業にどのような影響を与えていますか。欧州の鉄道車両工場などが稼働を停止していると思います。サプライヤーも含めてどういう状況ですか。
サプライチェーンが分断されたということは現時点ではありません。家電の一部の部品を中国から調達していたり、米国サルエアー(日立が2017年に1357億円で買収)が製造するコンプレッサーの部品を中国から持ってきたりしていましたが、それらは米中貿易摩擦が問題になったときに「リスク」として認識していたので手は打っていました。
最も事業に影響があるのが売上高の減少です。工場が止まって出荷できない。例えば自動車機器事業でいうと、完成車メーカーから3~5年先までの契約はもらっているんだけど、相手の工場が止まっているので納品できず、売り上げが立たない。受注があるのに要請に応えられないという状況が続くのが一番つらい。
欧米や中国で、いつ工場が稼働するかに懸かっています。最悪のケースでは、来年の3月末までこんな状態が続くこともある。あるいは、もう少し続くかもしれない。