マラソンランナーにとっての
高地トレーニングの舞台

 自分の専門領域について、異業種の人たちに理解してもらうことは意外と難しいものだ。タコツボの中ならいつでも「共通言語」で話し合えるが、多様なバックグラウンドを持つクラスメイトに対して同じスタイルは通用しない。共通言語や暗黙の了解を取り払った上で、自分の仕事や関わっている技術の本質を抽出し分かりやすく伝えなければならない。それは自分に改めて向き合う作業であるとともに、鳥の目の獲得を促すプロセスでもある。

 こうした経験を重ねながら、院生は技術部門や事業そのもののマネジメントに必要な能力を磨いていく。その能力を一言で表現すると、「考える力」ということだろう。とりわけ新規事業などのチャレンジにおいては、前例や定石をそのまま適用することができない。過去の歴史や成功事例は参考になるが、問われるのは、それらをいかに現在に生かすかということ。そこに、正解はない。

「求められるのは、状況を適切に認識した上で自分の頭で考えることのできる人材。私たちはそうした人材の育成に注力しています。たとえて言えば、ここに集う院生は学びながら、実践の現場を走り続けているマラソンランナーです。MOT専攻は、コースの途中に置かれた栄養補給ステーションのようなもの。高地トレーニングの舞台と言った方がいいかもしれません。そんな知的体力を養うための場です」(松島教授)

 東京都心にある東京理科大学キャンパスに、MOT専攻が創設されたのは2004年。2013年度は10期生を迎える。松島教授によると、修了生から評判を聞いて「それなら自分も」と応募する人が徐々に増えてきたという。充実した講義と場づくりのノウハウが修了生の考える力を高め、それが応募者の質を高める。そんなスパイラルアップのサイクルが回り始めているようだ。