米「フォーチュン100」企業の約7割が利用するサプライチェーン関連のITソリューションを提供しているCoupa。その日本法人トップは、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱が尾を引く現状をどう見ているのか。そして、サプライチェーンの価値創出力を高めるためにどのような手を打てばいいのか。小関貴志氏に聞いた。
サプライチェーンデザインが
全体コストの80%に影響
編集部(以下青文字):企業が抱えているサプライチェーン課題を、どのようにとらえていますか。
代表取締役社長
小関貴志
TAKASHI OZEKI
NEC、デル、セールスフォース・ドットコムを経て、2014年からマルケトの立ち上げに参画し、アライアンス、営業、マーケティングなどのマネジメントを歴任。2020年ジャパン・クラウド・コンサルティングに参画、2021年4月よりCoupa日本法人の代表取締役社長。
小関(以下略):コロナ禍による混乱が注目されていますが、自然災害やテロ、貿易摩擦などによるサプライチェーンの混乱は過去20年間にわたって頻発してきました。気候変動の影響や地政学リスクなどを考えれば、これからも不測の事態は続くでしょう。混乱は「常に起こりうるもの」と想定して、万全の備えをしておく必要があります。
経済活動のグローバル化に伴ってサプライチェーンの高度化・複雑化が進んでおり、これが混乱を拡大する構造的な要因となっています。調達・販売にしても、今日では、国境を超えてさまざまな企業と取引するのが当たり前になっています。ある国でモノの出荷が止まると、地球の裏側にある国で製品の製造や販売が滞るといったように、予想もつかなかった問題が起こりやすいのです。
一般にサプライチェーンがグローバル化するほど、混乱が発生した時の被害も甚大化する傾向がありますから、事業規模の大きな企業は特にサプライチェーンのレジリエンスを高めておく必要があります。
具体的には、どのような対策を講じるべきでしょうか。
まず、サプライチェーン全体の状況をスピーディに可視化できる仕組みを採り入れることです。そして、適時、最適なサプライチェーンの「デザイン」に取り組み、不測の事態が生じた時には混乱を最小限に留めるための対策を迅速に立案できる状態にしておくことです。
サプライチェーンの稼働状況については、生産拠点、調達先、輸送経路といった部分的な状況を把握できていても、全体を可視化できていない企業が少なくないようです。理想的なのは、一つのダッシュボード上で、サプライチェーン全体の状況が見渡せる環境を整えることです。
ある拠点でストップしている生産をどこに代替すれば再開できるのか、不足している在庫を別の拠点で保管していないか、寸断されている輸送経路をどう迂回すれば最短で部品・製品が届くのか。そうしたことが一目でわかり、瞬時に組み替えられる仕組みが求められています。
こうした仕組みがあれば、平時においても、最短、最安、あるいは最も環境負荷が低いサプライチェーンを構築することができます。
サプライチェーン全体のデザインが、なぜ重要なのでしょうか。
サプライチェーンマネジメント(SCM)は「デザイン」「計画」「実行」の3層に分けられます。企業全体のマネジメントに即していえば、戦略、戦術、運用です。
戦略なき経営はありえませんが、全体デザインがないまま計画と実行だけで部分的なSCMの改善を行っている企業が少なくありません。戦略的にデザインされていないサプライチェーンに混乱が発生すると、現場の判断で対応せざるをえません。そうした対症療法で局所的な混乱を収めたとしても、サプライチェーン全体の価値喪失を防ぐことはできません。デザインのあり方次第で、サプライチェーンコスト全体の80%が左右されるといわれるほど、その影響は大きいのです。
サプライチェーンデザインを行ううえでの最大のポイントは、企業戦略と同期させることです。たとえば、ドミナント展開を基本戦略としているのであれば物流効率の最大化、低価格戦略ならオペレーションコストの最小化、高品質戦略なら調達先まで巻き込んだ品質マネジメントといったように、戦略の効果を最大化できるサプライチェーンのあり方をデザインするのです。