ソリューション事業推進部
シニアビジネスデベロップメント
SAP Business Technology Platform
高橋 正樹氏
企業を取り巻くあらゆる物事の不確実性が高まっているVUCAの時代、経営のかじ取りの難度はますます高まっている。そうした中、重要性を増しているのが、過去と現在のデータ活用に合わせて、予算計画の策定、予実管理、予測分析という将来のデータを扱う経営管理プロセスの精度とスピードを向上させ、変化に迅速かつ柔軟に対応していくことだ。しかし、「現在」において将来のデータというのは自動的に蓄積させることが難しく、データを収集するところからしてこれらのプロセスには幾つもの壁がある。精度とスピードの向上のために、どうやってこれらの壁を乗り越えればいいのか。SAPジャパンシニアビジネスデベロップメントの高橋正樹氏に聞いた。
変化が激しい時代には経営判断の精度とスピードがカギ
将来のデータとなる予算計画を策定し、過去や現在のデータと合わせて予実を確認し、策定した通年の予算達成(収支目標達成)に向けて企業全体をマネージすることは、経営管理の基本的なプロセスだ。中身の大小はあれど、それ自体はどんな企業でも行われているものだろう。
ただし今日では、企業を取り巻く物事の不確実性が高まっている。そのため、計画した予算の抜本的な見直しが必要とされるような変化がいつでも起こり得る。実際、地政学的リスクによる為替の変動や原材料価格の高騰、市場の急激な縮小/拡大、技術革新や新勢力による市場での価格破壊など、企業経営に大きなインパクトを与える事象が非連続的に発生している。それ故に、これらの変化に対して柔軟なかじ取りが行えるよう、将来のデータを扱う経営管理プロセスを可能な限り迅速に、柔軟に、かつ精度も保つということが強く求められている。
ところが、まだまだ多くの国内企業において、そうした経営管理プロセスの精度やスピードを高めるのに課題を抱えていると、SAPジャパンシニアビジネスデベロップメントの高橋正樹氏は指摘する。
例えば、企業による予算策定のやり方の一つとして、トップダウンで予算の大枠を決め、それを基に各部門や子会社が数字を積み上げていくというものがある。その際、各部門・子会社からのデータ収集・集計や、各部門・子会社内のデータ生成にスプレッドシートを使用している企業がまだまだあるのが実情だ(次ページ図1参照)。これらのスプレッドシートは部門ごとに独自のフォーマットが使われていたり、担当者にしか分からないプログラムが組まれたりしていることもあり、プロセスがブラックボックス化して属人化しがちだ。
そのため、データをまとめ上げるだけでも相当の工数と時間を要しているほか、データの整合性、正確性の確認をとるために、各部門や拠点、関連会社に問い合わせをかけるといった手間も多く発生し、業務効率が低下している。
また予実分析のため、計画データと同じ粒度や軸で実績データの収集・集計が必要になるが、ここでもスプレッドシートでの処理を介在させているケースがあり、かなりの工数と時間がかかっている。しかも、こうして手作業で集計された計画および実績データからは、「なぜそうなったのか」という詳細な経緯・理由を即座に捉えることが非常に難しくなる。
「これでは、変化に応じてスピーディに計画を練り直すことはまず不可能です。しかも、リアルタイムのデータを使って計画の進捗を確認し、必要な経営判断をタイムリーに下すこともできません。ここ数年、変化への即応力を手にすべく、データドリブンのリアルタイム経営を志向する企業が増えていますが、現場がどのように、どんなデータを集めているかに目を向けて、適切なプラットフォームと体制を整えておかないと、危機に直面してから手を付けていくのでは、大きな損失を被るリスクがすぐそばにあると言わざるを得ません」(高橋氏)
では、一体どうすれば従来のアナログな経営管理から脱却し、高橋氏の提言するデータドリブンのリアルタイム経営を実現することができるのだろうか。
次ページでは、グローバルにビジネスを展開している大手住宅設備メーカーや大手製薬企業の経営管理のあり方を根本から変革した、リアルタイム経営実現のためのソリューションを紹介する。