毎年、多彩な美術作品が展示される「女子美祭」には多くの「絵が大好き」な小中学生たちが訪れる。デザイン思考、アート思考が求められる今、美術教育への人気は高い。そこで行われているのは「感性」と「知性」を伸ばす教育。教員は“すでにある個性”にしっかりと寄り添う。
並木憲明主幹教諭・広報部主任
“美術による女性の自立”を掲げ、1900年に誕生した女子美術学校(女子美大の前身)。附属高等女学校(女子美付属の前身)はその5年後に設立された。現在、日本で唯一の美術大学の付属校として、絵を描くことが大好き、ものを作ることが大好きな生徒が集い、個性豊かな生徒たちが創造性あふれる学園生活を送っている。
「今社会では、顧客や社会のニーズに応えて企画する“デザイン思考”や、独創的なアイデアで新しいものを創り出す“アート思考”が重視されています。AI時代の到来で今ある職業の多くがなくなるといわれる中、クリエイティブな資質は美術界にとどまらず、多様な分野で必要とされています」
そう話すのは、広報部主任の並木憲明主幹教諭だ。
生徒一人一人の
個性を見極め寄り添う
その学校名から美術に偏った学校だと思われがちだが、全ての教科をしっかり学ぶリベラルアーツを大切にしている。「本校には“知性が感性を支える”という言葉があります。感性だけで生きていくと、どこかで壁にぶつかってしまう。そのときに自分を支えてくれるのが知性。だからこそ、“感性を補完してくれる知性”を育む学習にも力を入れているのです」と並木主幹教諭。
中学の美術の授業は、表現を楽しむことから始め、心をこめてものを観ることや表現技法などの基本をしっかりと身に付ける。高校1年では多彩なジャンルの課題をこなし、美術史も学習する。高校2年からは「絵画」「デザイン」「工芸・立体」の3コースに分かれ、それぞれを専門とする美術科教員からハイレベルの美術教育を受け、発想力や技術力に磨きをかける。
美術以外の教科では、美術的要素を入れた教科横断型の授業が行われている。高校の英語では、美術の専門的な知識を英語で学ぶ「Art English」を実施。目標は、自分の作品を通して、世界中の鑑賞者と英語でコミュニケーションが取れるようになることだ。
高校3年では、女子美付属生活の集大成として卒業制作に取り組み、東京都美術館で展覧会を開催し発表する。卒業生の90%が美術系大学へ進学し、女子美大への進学が約8割。東京藝術大や武蔵野美大・多摩美大など他美大への進学の他、慶應大やICUなど一般の大学へ進学する生徒もいる。
「本校には個性の強い生徒が多く、いうなれば全ての生徒が“個人事業主”。それぞれが精神的に自立していて、協働するときは協働するというバランス感覚があります。個性は育むものではなく、すでにあるもので、私たち教員はその個性を見極め、寄り添って伸ばすだけ。ある生徒は女子美祭を訪れ“ここが私の生きる場所”だと思い、入学したと言います。自分を変える必要がなく、自分が自分でいられる場所。それが女子美付属の特色であり校風なのです」