「知耕実学」の教育理念に基づき、体験と座学の両輪で能動的な学びを実現している。大学と連携したフィールドワークや実験を通じて本物に触れ、議論や対話を重視した学びから科学的な思考力と表現力を育む。生徒の自主性を培い、高い進学実績につなげている。
東京農業大学第一高等学校中等部
幸田諭昭校長
本物に触れる体験を通して探究や思考を深め、人間力を育む教育を目指す農大一中・一高。同校が掲げる「実学教育」の価値観は、学校生活の隅々にまで浸透している。
今春同校に、都立中高一貫校などの経験が豊富な幸田諭昭校長が就任した。新校長はその実践ぶりにまず感嘆したという。
「授業や課外活動の随所に、五感を使って興味・関心を伸ばす仕組みや場が用意されていることに驚き、感心しました」
例えば中学入学後に行う「稲作」を皮切りに、「お米の科学」「味噌づくり」など食にまつわる実習や、宿泊を伴う研修では、北海道で野生動物の観察や、サケを丸ごと1匹使って、新巻き鮭作りを体験する(中3時)。
また、興味・関心から「能動的な学び」を育む場も多彩だ。テーマ選びから論文発表まで2年間かけて取り組む「課題研究発表」では「家でイルカを飼育できるか」「ロボットの二足歩行」といったユニークな発表が相次いだ。放課後には、自由参加の「一中・一高ゼミ」を開講。教員の得意分野に基づく約80のテーマから生徒が選び、学びの幅を広げる。
数々の体験は生徒たちの人間的な成長の場にもなっており、失敗を重ねるうちに発言を躊躇(ちゅうちょ)しない積極性や、仲間と協力し合う関係を育んでいく。ある行事でリーダーを務めた生徒が、別の行事ではフォロワー役に回るなど、行事が多い分、さまざまな立場を経験できる機会にもなっているのだ。
多様な取り組みからプレゼン力も鍛えられ、校外での成果も表れている。
昨年は、全日本高校模擬国連大会の全国大会に2チームが出場したほか、東京農大の研究室と連携し、エミューのオイルパックを開発した生徒たちは、高校生模擬起業グランプリで金賞を受賞した。挑戦を応援し合う校風が、さらなるチャレンジを生み出している。
手厚い進路支援で
高い進学目標を達成
近年、難関大の志望者が増えたことを背景に、高い進路目標につなげる取り組みも多数用意されている。東大・京大レベルの志望者には、独自教材で講義する「Tゼミ」や校内の「D模試」を用意し、医学部志望者向けのガイダンスや約200に上る無料の夏期講習もあり、入試に精通した教員が手厚く支援する。
今春は国公立大に56人、医学部に17人、GMARCHや早慶上理を含む難関私大には過去最高の483人が合格した。
「中学の段階で、どれだけ興味・関心を持ち、能動的な学びを定着させられるかが、その後の学力や進学にも大きく影響を及ぼします。農大一中・一高の体験重視の実学教育は、まさに“知を耕す”ものだと思います。この学びの形を深化させ、進学や将来の選択に生かす体制をさらに充実させていきたい」と幸田校長は力強く語る。