NEDOのプロジェクトとして開発

紙本 われわれもやはりメインの用途は目の代わりです。全国の送電設備の約50%が山間部を通過しています。ただ、山に持っていくドローンが重いと大変な運搬作業になります。ACSLさんが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で小型国産機を開発しているという話を耳にしてから、ずっと注目してきました。

鷲谷 ドローンのセキュリティーが懸念される中、NEDO事業として、「安全安心なドローン基盤技術開発」というプロジェクトが組成されて、当社を含めたコンソーシアムで開発し、昨年12月に量産を開始したのが「SOTEN(蒼天)」です。特徴としているのは国産であること、セキュリティー対策、カメラをワンタッチで切り替えができること、準天頂衛星システム「みちびき」により精度の高い位置情報を取得できることなどが挙げられます。

紙本 購入してまだ数カ月で、実装前の試験運用段階ですが、現場に持っていく際に軽くていいと評判です。今は性能面を検証中で、ACSLさんにいろいろアジャストしていただいています。

鷲谷 一緒に開発を取り組ませていただいている部分もあるので、しっかりやり切らなければならないという使命感を感じています。

自動飛行の実現で生産性が5倍に

進化した国産ドローンが「目の代わり」「手の代わり」となって、日本の電力インフラの課題を解決する送電線の点検に活用される「SOTEN(蒼天)」 提供:グリッドスカイウェイ有限責任事業組合

紙本 プロポで操縦するには、設備の近くまで行かなければならず、山間部の場合は登山が必要です。点検の作業は1時間程度なのに、移動に5〜6時間もかかる場合もあります。鉄塔に昇る手間がなくなっても、その移動のロスがまだ残っているので、そこを何とかしなければならないと考えています。その課題を解決するのがドローンの自動飛行による遠隔点検。つまり、飛行レベル3「無人地帯での目視外飛行(補助者の配置なし)」です。同飛行実現のためには従来の2.4ギガヘルツ帯のドローンでは電波到達距離が短く不可能でした。

鷲谷 SOTENはLTEに対応しているので、それが可能です。LTEを用いることで、ドローンと地上局(GCS)間の直接通信が不要となり、インターネットを介したドローンの自動操縦が可能となります。そのため、遠隔での運用が可能になるのです。

紙本 そこに大きな可能性を感じました。山の麓から自動飛行できれば、山登りをする必要がなくなります。手動の場合、ドローンを操縦する人と映像を見て点検する人の2人が作業に必要なのですが、自動飛行なら1人に省人化できるので、ベストケースで生産性を約5倍に上げることが期待できます。早くレベル3の実証実験につなげたいと考えています。

 経済安全保障が話題になっていますが、国産には安心感があります。高精度にドローンを飛ばすとなると、機体メーカーさんと非常にきめ細かな調整をしなければなりません。当初、海外企業の方とも連絡を取っていたのですが、特定の技術者が機体に関する全てを握っていたので、コロナ禍で来日できないとなると、われわれの仕事が止まってしまうのです。

鷲谷 グリッドスカイウェイさんが運用しておられるシステムとわれわれのドローンを統合することが大きな開発のテーマになっています。それを実現するためには、機体側では標準にない各種対応が必要ですし、グリッドスカイウェイさんの方でも、当社の機体に合わせたチューニングをしていただくことが必要です。かなり深いレベルでの情報開示が不可欠なのです。

紙本 われわれとしても一緒に成長していくことが大切と思っていますので、課題が出てきたら迅速に解決する対応を継続し、よりよいものにつなげていければと考えています。

鷲谷 SOTENはまだリリースしたばかりなので、こういう機能を実装してほしいというご要望がたくさん出てくると思っています。今後1、2年間にどれだけ速いサイクルでそれらを反映できるかが、この商品を生かすか殺すかを決めると思っています。何でもご要望やご不満を言っていただき、それに粛々と対応していくことがメーカーとして一番大切なこと。それが日本のインフラ維持への貢献につながると信じています。

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