コロナ禍を契機としたテレワークやクラウド利用の拡大など、デジタル化は一気に広がっているかのように見える。しかし肝心なのはデジタル化が広がることではなく、誰もがデジタル化のメリットを享受することだ。実際には「デジタルが苦手」という人たちが多数存在する。そんな中、誰にとっても利用しやすいデジタルの普及を目指して「日本デジタルアダプション協会」が発足した。その狙いはどこにあり、どんな活動をしていくのか、話を聞いた。

デジタル化が広がる一方で
「使いこなせない」現状も

「デジタルアダプション」という言葉が、最近日本国内で使われようになってきた。デジタルアダプションは「デジタルの利活用・定着」と訳され、「ユーザーが新しいテクノロジー(ソフトウエアプロダクト、アプリ、ウェブサイトなど)を最大限に活用し、デジタルプロセスやソリューションから最大の価値を引き出すことを学ぶプロセス」と定義される。2022年10月には、その推進を目指す「日本デジタルアダプション協会」が設立された。

 同協会代表理事で、Pendo.io Japanカントリーマネージャー高山清光氏は、「21年に発足したデジタル庁は『誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化』の実現を掲げていますが、その言葉の裏には、デジタルツールについていけない人の存在があるのです」とデジタル化の課題を指摘する。

デジタルに弱い経営者は生き残れない。業界の枠を超えた団体が目指す、日本復活への「最後のピース」日本デジタルアダプション協会
代表理事
Pendo.io Japan
カントリーマネージャー
高山清光日本ユニシス在籍後、オムニチュア、Boxなど米国スタートアップの日本法人立ち上げに参画し、日本での市場開拓と売り上げ拡大に大きく貢献。23年以上にわたってIT業界で活躍。グローバルなエンタープライズソフトウエアブランドの日本での需要を拡大させ、ビジネスを確立するために従事してきた経験を生かし、2020年11月にPendo.io Japanカントリーマネージャーに就任。

 企業法務に詳しく同協会監事を務める弁護士の田中康晃氏は「司法の世界もデジタル化が遅れている業界の一つです。IT教育を受けたことがなく、使いこなせていない人が大勢います。皆が使いこなせないと業界としての効率化を図ることはできません」と現状を語る。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)が大きくクローズアップされ、多くの企業がデジタル化を推進する中、具体的にどのような問題が起きているのだろうか。日産自動車、資生堂、三菱マテリアルといった日本を代表する企業でデジタル責任者を歴任してきた同協会理事の亀山満氏は、デジタル活用における3段階の課題を挙げる。

「システム導入の目的設定や体制等の不備でプロジェクトが最後まで完了せずに導入できなかったケース、導入はしたものの使い勝手が悪かったり、使う必要が明確でなくてほとんど使われていないケース、そして使ってはいるものの本来の価値を引き出せていないケースがあります」

デジタルに弱い経営者は生き残れない。業界の枠を超えた団体が目指す、日本復活への「最後のピース」日本デジタルアダプション協会
理事
亀山 満 1980年東北大学工学部卒。日産自動車でITを活用した全社業務改革を担当。2000年ゴーン改革を肌で感じながら企画室で車へのIT適用プロジェクトのグローバルリーダー、05年中国合弁企業のCIOなどを歴任。12年に資生堂入社、店頭応対のデジタル化、グローバルシステムの展開などを推進。20年より三菱マテリアルで最高デジタル責任者などを歴任。23年1月からグロービングで日本企業のデジタル化を推進。

 導入したシステムが実際には使えていなかったり、本来の価値を引き出せていないケースは厄介だ。企業自身がそうした状況にあることに気付いていない恐れがある。

 印刷や物流のシェアリングサービスなどインターネット関連サービスを手掛けるラクスルのCEOで、同協会理事の松本恭攝氏は「コロナ禍でクラウドサービスが爆発的に使われるようになりました。20年とは明らかに景色が違います。一方で、『とりあえず入れた』だけで使いこなしていないケースもあります」と指摘する。

 クラウドサービスのメリットは、少額でのスモールスタートなど、気軽に利用を開始できることだが、その裏で、導入しても使われないシステムを生み出すことにもつながりやすい。アプリケーションを手軽に開発できるノーコード、ローコードも同様だ。システムが身近になった現在だからこそ、デジタルアダプションが大きな課題として浮上してきているのである。