がんが人生を見直すきっかけになることも

 坪井医師は「がんになってから第二の人生が始まる」と言う。 「病気になるまでは、健康のありがたみに気付く人は少ないものです。私が担当する患者さんにも、がんになったことで改めて自分の人生を見つめ直すことができ、価値観や人生観が変わったという人が大勢います」

 前述の通り、医療技術の進歩によって、がんが治る人も、治療を続けながら生き続けている人も増えている。「がんになったことをきちんと受け止め、病気を正しく理解し、今何ができるかを考えれば、この先の人生をどう過ごすかが見えてくるはずです。治療には確かに副作用がありますが、趣味を楽しむことも、旅行をすることもできます。やりたいことに優先順位を付け、一つずつやっていくことで、第二の人生を楽しく過ごせることもあるでしょう。私は、治療も人生も、そのときにできるベストを尽くすことが大切だと考えています」

 今後、研究が進めば、がん治療も進化し、生存率も今より高まる可能性があると坪井医師は話す。 「がんは遺伝子の機能変異によって正常細胞が突然変異を起こすことで発症する病気です。つまり、変異した遺伝子を見つけ、それに適した薬を使うことで治療することも考えられる。今は、肺にできたら肺がん、大腸にできたら大腸がんと臓器別に分類されていますが、将来的には、発症した臓器にかかわらず、遺伝子ごとの治療へと変わってくるかもしれません」

 ただし、最先端の治療を受けるには、高額の医療費がかかることも考えられる。治療を受ければ存命、あるいは普通の生活を送ることができるのに、経済的な事情から治療を断念せざるを得ないがん患者が現在でもいるのだ。健康なうちにがんに備えるには、健康を過信しないこと、健診を受けること、そしてがんになったときに適切な治療を受け続けられるよう資金を手当てすることが必要なのかもしれない。