開校以来「自立した女性」を育んできた神奈川学園中学・高等学校。社会の中で人を育てるために、地域課題を入り口に視野を広げるフィールドワークを実践してきた。理数教育も充実させ、多様な進路につなげている。
及川正俊校長
2023年1月、中3の生徒たちが作家の白尾悠さんと交流した。講演までの1年近く、生徒は国語や社会、国際総合の授業の時間を使い、白尾さんの著作『サード・キッチン』を題材にマイノリティーとマジョリティー、差別と逆差別、日本と周辺国の歴史、無意識の偏見というテーマを探ってきた。白尾さんの講演やその後の質疑応答を通じて、作品執筆の理由や、他者との関係の持ちようで心掛けていることなどを教えてもらった。
社会とつながる教育、一人一人の個性を大切にする教育を、創立以来続けてきた神奈川学園。
中3の学年末の恒例行事であるオーストラリアでの海外研修と、その前のテーマ学習もその一つだ。例年、さまざまな題材から社会で自分ができることをじっくり考える探究学習を続けてきた。
これまで扱ったテーマは「先住民と移民」「固有種と生態系」「日本を知る、日本を語る」など。「海外研修を、単なる異文化交流の機会にとどめず、常識や制度といった『当たり前』を捉え直す機会にしてほしい」と、及川正俊校長は語る。
高1では、全国各地のフィールドワークに参加する。沖縄や高知・四万十川、熊本・水俣、宮城・岩手、京都・奈良などの中から自分で選んだその地を訪れ、住民との交流を通して正解のない課題や社会の矛盾と正面から向き合う。現地での出会いや話から、医学部への進学を真剣に考えるようになった生徒もいるという。
及川校長は「授業、行事、研修が相互につながることで、生徒の心が動き、物の見方が大きく変わる。そんな教育を工夫しつつ、実践しています」と語る。
理数教育の充実で
広がる進学実績
女子は理数教科が苦手──。そんな先入観にとらわれない理数教育にも定評がある。
理科では中学3年間で100回以上の実験や観察を重ねる体験型の授業をしている。数学は苦手意識を持たれないようトランプゲームで正負の計算を直感的に学んだり、グループワークで解答までの道筋を共有するなど、数学的活動を通して論理的思考を養う。高2からの進路別授業では、採点者に伝わる答案の記述力も磨く。こうして学んだ理数科目を、受験で生かす生徒は多く、進路にも反映されるようになった。22年度の卒業生のうち、4割を超す生徒が、医療や看護、薬学分野などの理系学部に進んだという。「どういう職業に就きたいか、どういう生き方をしたいか。将来の明確なビジョンを持って進路を選ぶことを大切にしています」と及川校長。現実社会を教材とする学びの中で、「自立した女性」を育てる神奈川学園。求められる「自立」の形が時代とともに変わっても、信念は脈々と受け継がれている。