「学びの主役は生徒」をモットーに、基礎学習と探究学習が両輪の実践を続ける多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校。1学年120人の規模を生かして、地域とつながり、生徒が発見し、深め、心が動く学びを生んでいる。
石飛一吉校長
「何のために勉強するのと聞かれたら、『新しい自分と出会うためだよ』と言っています。そうなるにはまず、楽しく学ばないと。学校はそのきっかけづくりの場であり、居場所でもある。そう考えています」と石飛一吉(いしとびかずよし)校長は語る。
その言葉を体現する一連の探究的な学びの場を、同校では「A知探Q」と呼んでいる。
夏休みの4日間、校長をはじめ全教員が独自のテーマで開講する「A知探Qの夏」では、教科書から離れ、教員の興味が混ざった幅広い切り口の体験型講座がそろう。地元のボクシングジムを借りて「ボクシング」の基本から掘り下げる講座の他、お菓子好きの石飛校長が主催する「チョコレート講座」では原料のカカオ豆をつぶす作業から始める凝りようだ。
積み重ねてきた探究学習の集大成として、2022年度から始めたのが高1を中心とした「探究ゼミ」だ。同校のある多摩市で、地域とつながる行動を起こす。12月には地元の大通り沿いで、高1の約20グループが、団地の老朽化や商店街の活性化など、課題の解決策をポスター形式で発表。通り掛かりの住民にその内容を投票で評価してもらった。「発表を聞いた人から質問されてその場で答えるという、台本のない、いわば路上期末テストですね(笑)」(石飛校長)。その他にもアイデアの実現に向け、多摩市役所との連携も進む。
学外の活動はさらに広がる。自作のゲームを並べたゲームセンターを文化祭で企画した生徒有志が、23年2月、市内のショッピングモールでも開催。買い物客や子どもたちでにぎわった。「誰かに『ありがとう』と言われて、多摩市に貢献できた感じがする」と生徒たちもやりがいを感じている。
「目標を変えてもいい」
しなやかな指導目指す
探究学習を支える基礎学力対策もきめ細やかだ。各教科の小テストやプリント、ノートから担当教員が理解度を確認する。また、国、数、英の教員による「学力推進部」が効果のある学習の方法を企画している。部活動と自学を両立する環境も整えた。学年に応じて午後7時半~8時半の最終下校まで、大学生の支援で自習ができる。
進路も、話しやすい教員や、関心分野に詳しい教員に相談するよう生徒に呼び掛けている。「教員全員で進路指導をする、という考えで臨んでいます。社会科が専門の私も、地政学が学べる大学について生徒から相談を受けています」(石飛校長)。
同時に、大学進学にとどまらない指導を心掛けているという。「人生を線路に例えると、進路指導は目標に近づくための切り替えポイント。社会が変われば、目標を変えてもいい。そんな生き方の基本を養う場が学校なのです」。しなやかに変わる教育を掲げる同校の姿勢が、生徒への向き合い方にも表れている。