キリスト教の精神「神を仰ぎ人に仕(つか)う」を掲げる女子聖学院中学校高等学校。自分の良さを知る場づくりと、独自のリーダーシップ育成、表現を重視した教育で、社会に貢献する「語ることばをもつ人」を育てている。
松尾知実教諭
「あなたはどうしたいの?」。生徒から相談を受けたとき、女子聖学院の教員たちは、こう問い掛ける。教育目標「語ることばをもつ人を育てる」を実践した声掛けが、生徒の「自分が自分でいられる気持ちを持てることにもつながっていると思います」と、探究委員会委員長、松尾知実教諭はみる。
「神を仰ぎ人に仕う」を建学の精神に掲げ、一人一人が、神からかけがえのない賜物(たまもの)を与えられている存在と考える。「まずは自分を知り、自分を大切にする。その上で、隣人のために何ができるか問い続ける。そういう人が育つ場となるよう活動しています」(松尾教諭)。
同校が力を入れる探究学習でも、自らの指針となる「自分軸」の確立を目指す。
中1では「学びとは何か」を問い、学びに本来欠かせないワクワク感を引き出す。中3では、ゼミ形式で興味のある分野を深掘りする。「あなたが社会を変えたいと思うなら、その風景はどういうもの?」と問い、専門家へのインタビューもしながら自分なりの改善点を見つけていき、ポスターやプレゼンテーションの形式で発表する。「探究学習に限らず、アウトプットを非常に大切にしています。引っ込み思案だった生徒も、人前で理路整然と発表できるようになっていきます」と松尾教諭。
「リーダーシップ教育」にも独自の視点で取り組んでいる。カリスマ性で率いるタイプではなく、一人一人が持つ力を発揮できるようなリーダーを育てていく。実際、コロナ禍での合唱コンクールは、声を出さないボディーパーカッションの演奏に切り替えることも生徒が判断した。また、運動会では企画から運営まで、生徒が担っている。
「スポーツが得意な生徒だけが活躍するのではなく、盛り上げる子、後輩の面倒を見る子、それぞれが役割を全うします」(松尾教諭)
体験型の理科見学旅行で
複合的視点を養う
ユニークな方法で生徒の興味を引き出す理科教育にも定評がある。その象徴となる行事が1970年から続く「理科見学旅行」(希望制)。全国各地を訪ね、その土地で見つかる物理、化学、生物、地学の要素を、複眼的に捉える視点を育む。九州を訪れた年は、八幡製鉄所の見学から阿蘇中岳の火口近くの自然観察、パラグライダーの飛行体験まで幅広く行った。事前の学習では、パラグライダーを入り口に、飛行機研究の歴史や揚力発生の理論の変遷を学んだという。
他校では珍しい地学の専任教員がいるのも特色だ。「自然科学の総合知に欠かせない学問であり、地球規模の課題にもつながっている。多くの生徒が高校で学びます」(松尾教諭)。
自分の言葉を持ち、現代の社会課題に向き合える人物を育てたい。その信念が、多様な学びの形に表れている。