【弁護士・依田の見解】

 遺産分割を行うためには、全ての相続人に判断能力、つまり一定程度、物事を理解し判断する能力があることが前提となります。そのため、上記事案で、もしお母さまの判断能力が不十分ということであれば、そのままでは遺産分割はできません。

 その場合、遺産分割をするためには、後見・保佐・補助の申し立てを行い、お母さまのために後見人・保佐人・補助人(以下「後見人等」と言います)を裁判所に選任してもらうことで遺産分割が可能となります。

 相続人であるお母さまと由紀さん・美香さんとの利害は、形式的には対立する状況にありますので、後見人等を裁判所に選任してもらうにしても、本人であるお母さまの利益が保護されるような形でなければなりません。本事案では、後見人等の人選につき以下の2通りの方法が考えられます。

1、由紀さん・美香さんの一方または両方を後見人等に選任してもらう(場合によっては、後見人等に選任された由紀さん・美香さんらを監督するために、裁判所はさらに監督人をつける)
2、(裁判所の候補者リストに基づき)弁護士などの第三者専門家を後見人等に選任してもらう

 もっとも、後見制度自体は「本人の保護」という崇高な理念に基づいて作られた制度ではあるのですが、実際にはさまざまな問題点が散見される制度でもあります。利用する場合には事前にそのデメリットも十分に確認しておくべきでしょう。本事案で特に気をつけたほうがいい、三つの点をご紹介します。

(1) 後見制度下においては、本人の法定相続分は厳守されなければなりません。そのため、二次相続(お母さまが亡くなった場合の相続)まで見越せば、お母さまの取得する相続財産が法定相続分を下回る方が相続税を圧縮できるような場合であっても(実際問題としてそのような場合は珍しくありません)、このような遺産分割は認められないことになります。

(2) 後見制度は、本人の財産を厳格に保全する制度ですから、遺産分割の結果お母さまが取得した財産は、全てお母さまのための支出に充てられる必要があります。親子間では誰のためかを厳密に区別せずに支出していることも少なくないと思われますが、後見制度は裁判所が関与する制度ということもあり、この点はかなりシビアな運用になっています。

(3) 遺産分割を可能にするために後見人等を選任したとしても、遺産分割終了後も、後見制度は本人が存命の間はずっと続きます。そのため、上記(2)のような厳格な支出先の区別や監督人・裁判所への報告はお母さまが存命の間、継続して行わなければなりません。

書影『負けない相続』(中央経済社)依田渓一・著/経堂マリア・執筆協力『負けない相続』(中央経済社)

【弁護士・依田から念押しアドバイス】

 相続人の中に判断能力が不十分な方がいる場合、そのままでは遺産分割はできませんが、後見制度を利用することで遺産分割が可能になります。もっとも、後見制度にはいくつかデメリットもあるため、事前にデメリットを十分に確認してから行うべきでしょう。

この記事は、筆者が実際に担当した複数の案件をもとに、依頼人のプライバシーに配慮して執筆・構成したフィクションです。内容は筆者の見解であり、所属する法律事務所の統一見解ではありません。

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