自分たちの特徴は何か自己を知れば、
弱点は長所にもなり得る

間杉原さんといえば、若干私は思い出があるんです。25歳くらいの頃、「週刊ダイヤモンド」の駆け出し記者時代に、確かある企業の不祥事があったときの記者会見だったと思うんですが、会見場に記者が100人くらいいて、テレビカメラもずらっと並んで若い私は圧倒されていたら、前の方で毅然と手を挙げて「東洋経済の原です」と言って質問に立った。

 隣にいた先輩が「おー、あれが原さんだよ」って。カッコ良かったですね、以来、イメージ上のロールモデルというか。だから今は同僚ですが、今日は会場の皆さまに“さん付け”でご紹介しました。

対談後はサロンで、腕時計や経済の話がはずんだ

原 容色はかなり衰えてきましたが(笑)。私は経営者にインタビューするとき「あなたの会社をひと言で表現してください」って聞くんですよ。何を提供して価値を生んでいる会社なのかを短い時間で言えるかどうか。

 よく「ソリューションを提供しています」って答えが返ってくるんですが、ソリューションを提供しないで売り上げをあげている企業なんてあり得ない。じゃあ、その何をソリューションしてあげている?そこまで突き詰めて考えているかということです。

間杉 なるほど。ちなみに今、注目されている経営者はいますか?

原 大企業の経営者って今おもしろくないですね。ひと言で言うと「うまくやろうとしている」感じがする。せっかく自分がトップになったんだから、この会社をこうしたいとか、ここで勝負してみたいという気概が感じられない。逆に中小企業に面白い人がいたりして。

 一つ紹介すると、大阪に「東海バネ工業」というバネの会社があるんです。この会社の特徴は多品種少量生産じゃなく「多品種微量生産」。1品からでもつくります、ということです。バネというのは電機と自動車と精密で、需要の85%なんだそうです。利益を上げるためには、どうしてもそちらへフォーカスして、大量生産でコストを下げようとするんですが、この会社は職人気質で大量生産がヘタクソなんですね。

 たまたま、先代から受け継いだ2代目の現社長がドイツへ行って、コストとか値決めの話をしていたら「どうしてそういうことを聞かれるのかわからない。値段が合わないなら、売らなきゃいいじゃないですか」と言われてハッとするんです。そして、「値引きをしないようにするにはどうしたらいいのか」を考える。

 何が言いたいのかというと、まず自分たちの特徴は何か、自己を知る。すると弱点は長所にもなり得るといわれるように、それが問題解決のスタートになる。この会社は完全受注生産でやろうと決めるんです。顧客のバネの材質から納期からすべてデータベース化して、次に注文が来たときは「この材質のこのバネでいいですね」と即座に対応する。納期遵守率ほぼ100%で差別化し、リピート率が95%になったのです。

間杉 まずは弱点を知ることが、チャンスにつながるということですね。私たちの周りにあることって、常識と思われていることが案外常識じゃなかったりして、中小企業は大企業とはまったく違う発想でうまくいく可能性がある。今のエピソードを聞くと、そんな気がしました。

対談終了後は、会場を別フロアに移し、講演者と参加者にて懇親パーティが開かれた。金曜日の夜ということで仕事から解き放たれたビジネスパーソンたちは、シャンパンを片手にみな饒舌。初対面でありながら、時計談義、ビジネス談義に花が咲いた。