GCとは本来、「General Counsel」という言葉が示す通りカウンセラーの性格を帯びており、企業で法務に関するアドバイスを提供するポジションだという。訴訟社会ともいわれる米国では、社内の人事部門や財務部門などに相談しても結論が得られない懸案事項を、CEO(最高経営責任者)が直接相談する相手がGCとなる。顧問弁護士のような外部リソースではなく、組織内の機能である点がポイントだ。
児玉氏は、「重要なのは、CEOとGCが、ダイレクトなレポートラインでつながっていること」と説明。米国ではこれがスタンダードであるのに対し、日本ではCLO(GC)を置く企業は少数にとどまるどころか、法務部門の多くは総務部文書課を出発点としている。法務部門は、諸規則や許認可、届け出や登記・登録を担当するペーパーワーク中心の部署であるという認識も一般的だ。「米国のように経営のアドバイスをする存在という発想は、日本の法務部門には全くありません」とその違いを指摘する。
日本企業における、こうした認識の溝を埋めるためにはどうすればいいのか。児玉氏は「CEOが法務問題に直面した経験があり、そこで法務が役に立ったという成功体験を持っているかどうかが重要だ」と述べる。CEOにこうした成功体験があると、予防的な面も含めて有効にCLO、法務部門を活用できる。一方で、成功体験を持たないCEOは法務の重要さが認識できておらず、法務に対するネガティブな印象を払拭できない例が多いと明かす。その印象とは、「何を相談しても問題点をあげつらって否定的なことしか言わない」「結論が出るまで時間がかかり、事業推進のスピード感がそがれる」というものだ。
これに対して日置氏も、自身が注力してきたCFO(Chief Financial Officer、最高財務責任者)の領域で類似した経験を持っているという。
「話を聞いて想起されるのは、2000年の前後にCFOが話題になったときのことです。元来CFOの概念が存在しなかった日本企業では、経理部長との認識が拭えませんでした。CFOと経理部長では、もともとコンテクストが異なります。役職だけを輸入してもワークしないというのは、CLOについても全く同じなのだと感じました」(日置氏)
シニア・エグゼクティブ
re-Designare 代表
日置圭介 氏
プロフィール:税理士事務所勤務から英国留学を経て、PwC、IBM、デロイト トーマツ、ボストン コンサルティング グループ(BCG)で、主にコーポレート領域のコンサルティングに従事。デロイトでは執行役員パートナー、BCGではパートナー&アソシエイトディレクターを務めた。現在は、re-Designare代表、メドレー社外取締役、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科兼任講師なども務める。
法務が経営に貢献するために必要な立ち位置とは
基調対談において児玉氏は、新しいビジネスモデルの立ち上げにおけるCLOや法務の重要性についても、詳しく解説した。
新しいビジネスモデルの実現可能性を検討するとき、技術面と法務面の二つの側面からの検討が必要になるという。後者について法務の貢献が求められるのは言うまでもない。しかし、フィンテックやドローン、自動運転、生成AIといった分野で顕著なように、日本企業は米国のビジネスモデルを後追いすることが多く、法務の検討過程は米国で終了してしまっている。そのため、こうした法務の役割が、日本においては目立たない存在になっていると児玉氏は指摘した。
加えて児玉氏は、ビジネスモデルの実現可能性の検討における法務の最初の役割として、「現行法の障壁の分析」を挙げる。しかし、重要なのはこの先だとも指摘した。「現行法に障壁があっても、応用を利かせれば対応可能なら、CLOや法務は合法的なビジネスモデルを考えた上で提案する役割が求められます。これはいわばビジネスモデルの“モールディング(練って作る)”であり、法務がビジネスクリエーションに貢献できる重要な場面なのです」。
さらに児玉氏は、新しいビジネスモデルの立ち上げにおいて、CLOができる限り早期に関与することが必須の時代を迎えていると述べた。理由として、新規ビジネス立ち上げの初期から議論に加わっていれば技術的な理解も深まっており、法律面での課題に直面した際にも、どの部分を工夫すれば実現可能性が高まるかが見極められることを指摘した。
基調対談の最後では、イベントのテーマでもある「リーガルオペレーションズの実践」についても言及。日置氏に問われた児玉氏は、リーガルオペレーションズの概念について、これまでのCLO単体にスポットライトを当てた議論を、法務部門全体の組織論に高めたものであり、人材育成を意識した考え方であることも評価できるとし、これにオールジャパンで取り組む重要性を述べた。その上で「願わくは、議論を一日も早く終え、インプルメンテーション(実装)することです」と実践の大切さを説いた。また、リーガルオペレーションズを日本版へローカライズすることの重要性も認めつつ、グローバルスタンダードを常に意識する必要があることも強調した。