売り上げの大半を海外で稼ぐグローバルカンパニーとなった資生堂。組織開発や人材マネジメントにおいても、グローバルスタンダードを踏まえた改革を実行している。その改革のプロセスを追うとともに、これからの日本企業に求められる人事の組織能力と機能、その向上策を明らかにする。
真のグローバル企業を目指す人事改革
創業150年を超える資生堂は、長らく国内事業のウエートが高かったが、近年は急速にグローバル化を加速し、今や約120カ国・地域でビジネスを展開し、売上高の7割強を海外で稼ぐ。同社は社員の専門性を強化して、「グローバルで勝てる組織」となるために人事領域における抜本的な改革に着手し、2021年から日本国内の管理職・一般社員を対象に職責や役割に基づいて処遇する報酬体系を本格導入した。
これは社員の等級を判定する基準を個人の「能力」から「職務」に変え、グローバルスタンダードに近い評価・処遇体系の下で、社員自身が専門性を磨き自らキャリアを高めていくことを促す改革であった。各部署や管理職ポジションの職務内容と必要な専門能力を明確化し、グローバルな事業運営を支えるタレントの育成と組織開発を行うことも狙っている。22年には国・地域や法人の枠を超えてグループ内の人材を共通の等級で格付けする「グローバルグレード」の適用を開始した。
「当時の制度改革は、“強い個”が強い会社をつくるという考えの下で行われました。また、社員の専門性を高めるために計画的な育成を行い、世界中から優秀なタレントを引き付け、グループ内で最適な人材配置を可能にするため、グローバル共通の人事基盤を必要としていました。現在の新しい人事方針では、グローバルのシステム基盤、各人の専門性向上やキャリア開発機会の提供に加え、組織開発の強化、一人ひとりの心に内在する仕事への活力・熱意(Passion)を上げるための具体策の検討・着手に注力しています。一連の改革はまだ道半ばですが、国内外の環境変化を見据えながら、スピードを上げてさらに前進する必要があります」。資生堂の人事部門に当たるピープル&カルチャー本部でグローバルの報酬体系を統括するグループ責任者である小川寛六氏は一層の改革の必要性を語る。
日本企業の海外進出は半世紀以上の歴史があるが、これまで日本からの駐在員と現地採用人材を別々の人事制度や処遇、いわば異なるOS(基本ソフト)で管理してきた。しかし、数多くの日本企業の組織・人事変革を支援してきたマーサージャパンのシニアプリンシパル、前川尚大氏は、「日本と海外を区分せず、グループ全体で経営人材の育成・採用に取り組んでいくには、日本型OSからグローバル共通のOSへの転換が求められます」と指摘。その観点から、資生堂の改革姿勢を高く評価する。
海外で広くビジネス展開する多くの日本企業にとって、グローバル共通の人事基盤の構築は難度の高い課題だろう。資生堂はいかにしてこの難題を解決しようとしているのか。改革の進捗と今後の課題認識、そして、グローバル展開を進める日本企業はどのような方向性で人事変革を実行し、人事機能をどう高めていくべきなのか。次ページ以降で詳しく紹介する。