企業ニーズにマッチした
女性ならではの視点

図書資料約54万冊を所蔵する附属図書館は、電子化も進み学生1人当たりの資料数も豊富だ

 そもそも女子大では存在自体が珍しい理学部。奈良女子大学理学部は、五つの学科から成る。複雑な事柄から普遍的な法則を引き出す「数学科」、素粒子から生命を形づくる物質まで多様な現象の法則を究める「物理科学科」、物質の性質と変化を追求する「化学科」、生命のあり方を総合的に探求する「生物科学科」、そして情報という概念を軸に自然科学の枠組みを超えた研究を展開する「情報科学科」である。

 各学科とも1年次から専門科目が導入され、学生は初歩的内容から専門的知識までを、時間をかけて勉強することになる。演習や実験の授業は1年次からスタートし、3年次までに標準的な実験のリテラシーを習得。4年次からは卒業研究が始まり、大学院に進学する学生は修士課程につながる研究に着手し、最先端の研究に参加しながら、応用力、実践力、課題発見解決能力を身に付けてゆく。大学院修士課程の卒業生たちの進路は、一般企業から教育関係、公務員まで幅広く、「最近は商品開発などで女性視点の発想を必要とする企業からの技術職の人材ニーズが高くなっている」(棚瀬教授)。

 一方、家政学部を前身とする生活環境学部の理系学科は、管理栄養士の受験資格が取れる「食物栄養学科」をはじめ、人体と生活素材の関係を考える「生活健康・衣環境学科」、快適で安全、魅力的な住環境を研究する「住環境学科」に分かれる。こちらの生活環境学部も、家政・生活科学系の中では存在自体が希少で、必然的に国内トップクラスに位置しており、卒業生たちの多くは、大学教員や企業の専門職として全国で幅広く活躍している。

 女子大の利点は、一般的に、共学の大学では男子学生に隠れがちな女子が積極性を持たざるを得なくなり、その積極性が社会に出てから優位に発揮できることにあるといわれる。奈良女子大学も例外ではなく、研究室などで自然に「前に一歩出る」積極性を持つ女子学生が多く出現するという。さらに奈良女子大学の特長として、棚瀬教授は最近の女子学生のフットワークの軽さを指摘する。

「21世紀の科学は、現象をシンプルな系に分け単純化して考える要素還元型の研究と違い、複雑な現象を複雑な系のまま研究するニーズが発生しています。つまり自分の主専攻以外のフィールドにも身軽に進出し、さまざまな研究分野に精通しないと課題に対応できない。本学の学生は、違う研究分野にも積極的に進出していける感性が優れていると感じます」

 消費者ニーズの変遷が早い時代において、企業にとっては得難い感性ともいえるだろう。

 うららかな古都の地で、本格的な理工系教育を提供する奈良女子大学。理工系女子全体の価値が高まるにつれ、奈良女子大学の伝統と実績の力はさらに輝きを増している。