名古屋では事情が異なる。市当局者は、観光客が増えれば喜んで迎え入れると話すが、控えめな住民にとって街を外部にアピールするのは簡単ではないと認めている。

 名古屋観光コンベンションビューローの観光部長を務める木野有恒氏は「名古屋人の気質としては、おとなしい。あまりアウトゴーイングではない」とし、大阪の人とは違い、自分たちを売り込むのは得意ではない、と述べた。

 日本政府観光局によると、今年1~9月の訪日外国人(インバウンド)数は前年同期比18%増の約3200万人となった。このペースで行けば通年の人数は、過去最高を記録した24年の3700万人を超える見通しだ。24年はインバウンドによる消費額が8兆円余りだった。

 国連世界観光機関(UN Tourism)によると、外国人観光客の数ではフランスが世界首位で、2024年に1億0200万人を受け入れた。消費額は約770億ドル(約11兆8600億円)だった。

 日本の歴代政権は観光業振興を優先課題に掲げてきた。2030年までに訪日外国人旅行者6000万人という目標を掲げている。所得向上の影響で世界人口のますます多くが空の旅をするようになり、日本は諸外国と同様、観光については高い工業技術力を補完する貴重な雇用・経済成長源になると捉えている。

 だが観光が急拡大するスピードは、国民の一部を不安にさせており、アナリストによると、「日本人ファースト」を掲げ、外国人観光客や移民への不満に焦点を当てる参政党のような新興政党が選挙で躍進する一因となった。

 政治的な敏感さの表れとして、高市早苗首相は与党・自民党の総裁選中に、地元・奈良にある奈良公園のシカを蹴り上げているなどとして外国人観光客を批判した。

 新型コロナウイルス流行下で観光は落ち込んだが、その後、急速に回復している。昨年は韓国からの観光客が国・地域別で最も多く900万人近くが来訪した。中国、台湾、米国がそれに続き、米国からは約270万人だった。

 外国人観光客の宿泊数では、東京が約4000万泊で首位、大阪が2位だった。狭い路地が連なり、芸妓(げいこ)や高い塔のある寺院で知られる京都が約1200万泊で3位だった。名古屋を含む愛知県は300万泊で9位だった。

 京都の清水寺を訪れていた、アイルランドのミーズ県在住のジョー・キルガノンさんと妻のキャサリンさんは、人混みに「ちょっと圧倒される」と語った。観光客は旧市街の小さなエリアに集まりがちだ。

 だが、名古屋については聞いたことがないと話した。清水寺の境内を散策していた米シカゴ在住のマイク・コチアンさんと妻のデボタさんも同様だった。「恐らく知る人ぞ知る穴場だろう」と、製造会社の幹部を務めるマイクさんは述べた。

 住民によると、名古屋がつまらないという評判にはもっともな部分がある。長年続く工業都市であるため、人々は早寝早起きの傾向があるという。市内有数の老舗居酒屋は最近ようやく営業時間を午後8時以降に延長した。産業機械の歴史に興味があれば、リニア・鉄道館やトヨタ産業技術記念館、さらには下水道科学館を見学できる。

 日本舞踊・西川流の四世家元で名古屋生まれの西川千雅氏は、名古屋人は故郷を愛しているが、彼らでさえここは退屈だと言うと語った。産業に関心を向けていたのはある意味、長い間、観光を下に見ていたからだ、と同氏は述べた。

 直面する課題は、地元住民には高すぎる飲食店の価格や、混雑する公共交通機関、ゴミ問題、絶え間なく押し寄せる群衆といった問題に屈することなく、より多くの訪日客を呼び込む方法を見つけることだ。日本の人々はこうした問題が他都市を悩ませていると話す。

 市内のホテル「ニッコースタイル名古屋」の総支配人、西邦之氏は、観光客が増えることを望むと話しつつも、特に名古屋が来年アジア競技大会の開催地になることから、依然としてオーバーツーリズムを心配している。名古屋の魅力は、日本の中央に位置することと、あまり混雑していない事実そのものにあると同氏は考えている。

 熱田神宮を訪れていたドイツ在住のラース・ライプナーさんとケルスティン・ベニングさんは、名古屋に滞在することを選んだのは、(岐阜県の)高山や白川郷などへの日帰り旅行に便利な立地のせいだと話した。2018年の前回旅行で、主要な観光地の東京や京都、大阪、広島を訪れたため、今回は人混みを避けて日本の別の面を見たかったという。

 ベニングさんは「観光客があまり多くない方が好きだ」と述べた。

 市当局者はオーバーツーリズムのわなを避けるため、同様の計画を立てており、名古屋を終日過ごす場所ではなく、周辺地域やそれ以外を観光するための拠点にすることを目指している。

 それでもやはり旅行者に途中下車したいと思わせる必要がある。それが最大の問題だと、名古屋観光コンベンションビューローの木野氏は話す。

(The Wall Street Journal/Jason Douglas and Junko Fukutome)

※この記事はWSJにて2025年11月10日 07:41 JSTに配信されたものです。

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