世界に先駆け高齢化が進む日本が直面する課題は、政府だけ、あるいは一民間企業だけで解決できるものではない。だが、そのアプローチには大きなビジネスチャンスがある。

 今、業種を問わず大小さまざまな企業が、この「眠れる巨大市場」で新規プロジェクトを立ち上げている。その成功例が、フィリップスの在宅ケア「緊急通報サービス」だ。介護事業者や病院などと協業し、最新のデバイスやテクノロジーを活用して、高齢者を24時間×356日の体制で見守るこのサービスは、ITの力を最大限に生かし、持続可能なビジネスを成立させることで社会にソリューションを提供するものだ。

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 こうした戦略事業、新しいビジネスモデルを創造するうえで、すべての出発点は“消費者”である。B2CはもちろんB2Bも最終的に消費者につながる。潜在顧客の動向を見誤れば、ムダなモノ・サービスを大量に生産して収益低下、さらには社会全体のコストを高めてしまうが、逆に顧客を正しくとらえることができれば、ムダのない社会づくりに貢献する。

顧客リレーションの基盤なくして
ビジネスプロセス改革は実現しない

 消費者の数は膨大で、これまで1人1人の動きを把握することは困難だった。しかし、近年その状況は大きく変化し、スマートフォンやタブレット端末の普及、ビッグデータ解析技術の進化などにより、消費者1人1人をとらえた提案やソリューションが実現しつつある。フィリップスの緊急通報サービスは、まさしくその先例であり、事業戦略はビジネスプロセス改革、なかでも顧客リレーションの基盤なくして実現しないことを明示している。

 その顧客基盤の設計段階で、フィリップスが重視したのはスピード、つまりスタートアップの期間短縮だ。目標の優先順位を絞り込み、「こだわるプロセス」と「こだわらないプロセス」を選別し、ベストプラクティスを活用した。さらに、今回のチャレンジには、世界各国が高齢化社会を迎えつつあるなか、先行して高齢化が進む日本市場でビジネスモデルを確立するという戦略的意義もある。成功すれば、アジアをはじめ海外への展開が視野に入ってくる。

「素早く」「小さく」始めて「大きく育てる」ためのヒントが満載の同社の手法は、新規事業のみならず、あまねく行われるプロジェクトのアーリーサクセスを確実にするといって過言ではない。