マンションの大規模修繕は、建物の経年劣化に対応し、分譲時の水準まで「戻す」作業だ。さらに、陳腐化した建物性能を「上げる」改良作業も欠かせない。2つを同時に行うバリューアップ改修が今、大きな注目を集めている。

あえて大規模修繕と
同時に改良する意味

 マンションを維持管理していくためには、10年強の周期で計画的に大規模修繕を行うことが大事。しかし計画があって、積立金が予定通りにたまっていれば、それだけで大丈夫というわけではない。実施段階で予定以上に費用がかかり、予算不足になることもある。もっと怖いのが、大規模修繕の回を重ねるにつれ費用がかさみがちな点だ。

「うちのマンションはそろそろ第3回目の大規模修繕の検討に入る時期。老朽化が進んで修繕が必要な箇所が増え、予算も膨大に。いっそ建て替えたほうがいいと主張する住民も出てきて、合意を取りまとめるのに一苦労しました」と語るのは、都内の築4年になるマンションをまとめる管理組合理事長。

 分譲時レベルまで「戻す」修繕や設備更新に加え、陳腐化した建物性能の改善という、「上げる」改良も必要になる。これらを同時に行うバリューアップ改修は、居住性と資産価値に直結する重要な要素だが、その資金調達と改修に向けた合意形成は、決して容易ではない。

 前述の管理組合では、計画通り大規模修繕だけ行う場合と、バリューアップ改修を行う場合のシミュレーションを行い、コストを比較したところ、一緒に行えば別々に行うより約1割コストダウンが図れ、工期も大幅に短縮できるとわかった。

「うちのマンションは容積率などの問題で建て替えは難しいとわかったので、ならばこのタイミングに改良もと、踏み切ることになりました」という。決め手は複数業者から見積もりを取り、慎重に工事内容を吟味するとともに、経過を管理通信の形でわかりやすく発信しながら、合意形成をしたことだ。

 首都圏ではわずか6年後に、費用がかさむ「3回目の大規模修繕」が、「1回目」「2回目」より多くなる見通しだ。マンションの管理状態や劣化の度合いは、千差万別。迷ったら建物診断をして、それぞれのベストな道を選びたい。