去る7月24日、城山三郎経済小説大賞受賞記念講演会で、作家の佐高信氏と対談しました。その中で、リーダーに必要なものは何かという話題になったのです。佐高氏は政財界の人物の例を挙げながら、「少数意見や批判に耳を傾けることのできる人物でなければリーダーにはなれない」とおっしゃいました。まさに、その通りだと思います。
ロスチャイルド家初代の三男であるネイサン・マイヤー・ロスチャイルドは、英国でロスチャイルド財閥の基盤を築いた人物。私の著作『ザ・ロスチャイルド』の主人公です。ネイサンは、執拗なユダヤ人への侮蔑や中傷に憤る子どもたちに対して「ロスチャイルドは、我々のことを悪しざまに言う人とこそ付き合い、手を差し伸べるのだ」と諭したといいます。19世紀初めのことです。
当時のキリスト教徒によるユダヤ教徒差別は峻烈でした。それでもなお、子どもたちにこのように説いたわけです。今日まで世界経済に影響力を維持し続けるロスチャイルド家の神髄の一つといえるのではないでしょうか。
もう一つ、ご紹介しましょう。やはり『ザ・ロスチャイルド』で、ネイサンの仇敵となっている人物、ナポレオン・ボナパルトにまつわるエピソードです。
ナポレオンは、平民の出身。軍人としてキャリアをスタートし、フランス皇帝に上り詰めました。夢のようなサクセスストーリーを実現したナポレオンを、民衆は熱狂的に支持しました。そのナポレオンの躍進を支えたのが、外相などを務めたタレイランです。タレイランは、ナポレオンが欧州支配の拡大策を取ったとき、次のような言葉を残して彼の下を去りました。「彼は戦争で英雄になった。だから戦争をやめられないんだ。でも、すでにフランス人は戦争に飽き飽きしている。彼には、戦場に息子を送り出さなければならない母親たちの怨嗟の声が聞こえないのだろうか」。
やがてナポレオンは国民の信頼を失い、失脚します。タレイランも、この失脚劇に積極的に手を貸したといわれ、戦後の外交処理に奔走しました。リーダーであり続けることができなかったナポレオンは、南大西洋の孤島セントヘレナで、失意のうちに生涯を閉じました。
ロスチャイルドとナポレオン、リーダーの資質を備え続けたのは前者だったことを歴史が証明しています。
1971年生まれ。作家
(株)家計の総合相談センター顧問
94年立教大学経済学部経済学科卒業。
大手銀行、証券会社等を経て2000年に独立。
人材育成コンサルタントとして活躍。
12年、処女小説『ザ・ロスチャイルド』で、
第4回城山三郎経済小説大賞を受賞。