「冷却手段の『水冷』へのシフトはこの1年で急加速し、新設データセンター(DC)の多くが水冷を前提とした設計を採用しています」
そう語るのは、新日本空調執行役員技術本部長の渡邊美奈子氏だ。
AI処理を担うGPU(Graphics Processing Unit)搭載サーバーでは高発熱化が進み、空冷だけでは十分な冷却が難しいケースが増えている。
課題はそれだけではない。既存の空冷型DCを水冷化する場合には設備の重量増や配管の複雑化など、既存建物ならではの制約にも対応しなければならない。
「全ての設備を水冷に切り替えるのは現実的ではなく、空冷と水冷をどうハイブリッドで最適化するか。多くのお客さまが、まさにここで試行錯誤を重ねています」(渡邊氏)
特定メーカーに縛られず 災害にも強い「総合力」に強み
こうした複雑な課題に、確かな技術力で応えているのが新日本空調だ。
同社は空調設備を主とした建築設備の設計・施工管理を担う総合設備エンジニアリング企業。オフィスビルや商業施設から超高層ビル、原子力関連施設まで幅広い実績がある。DCの冷却でも、空冷・水冷・液浸(サーバーを液体に沈める方式)の設計・施工で豊富な知見を持つ。
研究所内には、サーバーを液体に沈める方式の「液浸」冷却を見学できる施設もある
その強みの核心は「顧客の立場に立ったベストな選択」にある。特定のメーカーに縛られず、建物の状況・用途に応じて最適な設備をトータルで提案できる。このエンジニアリング企業としての立場が唯一無二の価値を発揮する。
提案を裏打ちするのが「技術開発研究所」だ。業界屈指のDC模擬実験施設「DC lab.(DCラボ)」を有し、200kW程度の熱負荷を再現した検証が行われている。
業界屈指のDC模擬実験施設「DCラボ」
「当社が得意とするのは、精緻な気流・熱流体シミュレーションと、サーバールームの詳細な環境計測を実施した結果に基づく最適な空調システムの提案です。独自の気流調整機構『フローシールド』なども活用しながら、どのような設備配置で空気や水の流れを最適化し、PUE(電力使用効率)を改善できるのかを、建物を造る前に導き出します」と技術開発研究所所長の八文字成実氏は語る。
新日本空調技術開発研究所 所長
八文字 成実氏
精緻なシミュレーション技術は、設備計画の最適化にとどまらない。空調システム全体を統合的にシミュレーションすることで、「冷却ユニットが1台故障したときに残りのシステムでどこまでカバーできるか」といった冗長性の検証も、建設前に顧客へフィードバックできる。DCラボは最新設備を顧客に「見える化」するショールームとしての役割も担っており、各種冷却方式の実態をまだ十分にイメージできていない発注者や経営層にも、実機で直感的に理解を促せる場となっている。
空気中に浮遊する目に見えない微粒子の挙動をリアルタイムで観察できる「微粒子可視化システム」。データセンター内の空気の流れや微粒子の挙動を詳細に把握できる
新日本空調の真の強みは、「熱を除去する」技術だけではない。社会インフラとして「止まることが許されない」DCを、自然災害から丸ごと守り抜く「レジリエンス(強靱性)」の構築にこそ、他社との決定的な差がある。
「地震や水害が多い日本では、いかにしてDCの停止リスクを最小化するかが極めて重要です。当社は地域冷暖房や原子力関連施設など、インフラ施設に求められるノウハウをDCに応用し、独自の防災ソリューションを数多く提供しています」(八文字氏)
地震対策では、天づりの空調設備向けに独自の「落下防止金物」を開発した。大きな揺れでつりボルトが破断しても、ワイヤーが設備を支え落下を防ぐ。施工の省力化にも優れ、既存設備への後付け対応も可能だ。
水害対策では、空調ダクトを経由した機械室・電気室への浸水を防ぐ専用ダンパーや、荒天時の雨水浸入を大幅に低減する高性能ガラリを製品化している。集中豪雨が頻発する昨今、こうした対策へのニーズも高まっている。
そして、同社の特徴的な技術の一つが「火山灰対策」だ。
富士山などにおいて大規模噴火が発生した場合、飛散した火山灰が外気フィルターを目詰まりさせ、空冷式チラーや非常用発電機を停止させるリスクがある。同社は10年以上前から原子力関連施設向けの火山灰対策に取り組み、採取した火山灰を使用した実験を重ね、同社の独自技術である「微粒子可視化システム」により粒子の挙動を評価。火山灰を「捕集」する特殊フィルター、冷却水へ混入した火山灰を除去するろ過装置、空冷式チラーへ付着した火山灰を洗浄できる散水装置などを組み合わせた実効性のある対策方法として実用化した。
「万が一、富士山が噴火すれば、首都圏の膨大な数のDCが被害を受けるリスクがあります。当社は、噴火前からの事前準備、噴火中の設備保護、そして早期復旧まで、一連の対策をトータルでご提案できます」(八文字氏)
地震・水害・火山灰といった複数のリスクに一元的に対処できる体制――。それが、重要インフラを預かる事業者から絶大な信頼を得るゆえんだ。
「デジタル×グリーン」を両輪に 未来を拓くエンジニア集団
「AIデータセンターという複雑な施設を安定稼働させるには、単発の機器導入でなく、トータルのエンジニアリング力が不可欠です。私たちは長年培った『ナレッジ』と最新の『テクノロジー』を掛け合わせ、その期待に応え続けます」(渡邊氏)
同社は今春、新中期経営計画「SNK Vision 2030 Phase Ⅲ」で、「デジタルフロンティア戦略」と「グリーンイノベーション戦略」を両輪に掲げた。シミュレーションやAIによる最適化(デジタル)で、DCの省エネとCO₂削減(グリーン)を両立させる。
技術開発研究所で活躍するメンバー(取材当日の在籍者)
「顧客の収益性と環境価値の両立に貢献したい」(八文字氏)。その言葉には、エンジニア集団ならではの発想が宿る。
「AI時代」という未知の領域を拓く“ナビゲーター”として、新日本空調の真価が今まさに問われている。
