さて、要素の三つ目は、「異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティ」である。「さまざまな国籍を有する人々と付き合う中では、自国のことを知って語り主張できる、いわゆるアイデンティティのある人物が評価されます。加えて、幅広い教養も必要です。主に専門用語でやりとりするビジネス会話に比べ、幅広いトピックスが含まれる日常会話のほうがより難しく、個々人の教養が外交やビジネスなどの交渉における重要局面に大きな影響を与えるものなのです」と、平賀氏は説明する。これらの要素を社会に出る前に身に付ける場として、あらためて大学が注目されるところだ。

 グローバル化を進める大学の取り組みは多彩だ。代表的な例は、留学生の受け入れ、送り出しの拡大である。文部科学省主導の“グローバル30”が、留学生受け入れ拡大の契機になったことは間違いない。大学にいながらにして、多様な文化的背景を持った学生と触れ合うことができるのは、貴重な体験になる。留学生向けのコースを設けて英語授業の履修のみで学位を取れるようにしている大学や、さらにはそうしたコースの履修を日本人学生に開放しているケースもある。

 平賀氏は「取り組みの拡大に影響するのは、競合する内外の他大学の動向です。多くの留学生を集める大学にはどのような魅力や条件があるのか。それらに対抗できる独自の優位性やメリットを打ち出せる大学が、より多くの留学生を集めグローバル化を推進できます」と語る。

 留学生の送り出しに関しては、海外大学との提携にも注目したい。学位を取得できる留学プログラムや就職活動に差し支えないスケジュールなどに配慮する大学が増えた。また、留学への手厚いサポートも最近の傾向だ。「留学の目的も変化し多様化しています」と平賀氏。「欧米の進んだ学究に触れるという従来型だけではではなく、新興国を含む異文化での学修・生活体験を通じてグローバル感覚を養うことが重視されるようになっています。そういう意味でもアジアへの留学が増えていますし、アジアの経済発展とわが国との関係の一層の強化という環境下で将来のキャリアを考えると、そのメリットは小さくないと考えられます」。

 グローバル人材教育は今や多くの大学にとって共通の課題。「自大学のグローバル化について明確な目標とビジョンを持ち、それに向かっての仕組みや制度がしっかりと機能しているかを確認したいところです」(平賀氏)。グローバル人材育成の実効性が大学選びの重要な判断材料の一つになっている。

※国際化拠点整備事業(大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業)