夫を家事と育児に
巻き込む戦略

 コンサルティング活動で全国を飛び回り、プライベートでは妻、そして7歳と生後10ヵ月の2児の母として多忙な毎日を送る小室氏。当然のことながら、自身もワーク・ライフ・バランス実践中で、その要となる「家」には、生活を効率化し充実させるための工夫が詰まっている。

「住宅を買うとき、最初に挙げた条件は保育園に近いこと。働く母親として、これは譲れません。私の場合、家から保育園までは徒歩2分で、オフィスまでは徒歩6分です」

 これはかなり恵まれた条件であるが、最近は確かに子育てと仕事の両立を目的に、「都心暮らし」を選ぶ世帯も増えている。

「次の条件は、料理をしながら子どもの様子が見られるように、キッチンから居間が見渡せる間取りであること。そして、お風呂が大きいことです。わが家では、朝、家族全員でお風呂に入ります。これは毎日、子どもと父親との時間を取るためのアイデアです。家族だんらんを夜の時間だけに頼ると、夫だけ子どもと話せない日が出てきてしまうので、朝だんらんするのです」

 小室氏自身、残業も仕事の持ち帰りも厳禁、社員も同様という徹底ぶり。全国の企業がそこまで勤務条件を向上させれば、出生率は上がるかもしれない。

 さらに小室家では、朝食は夫が作る。今ではふわトロのチーズオムレツまで出てくるというが、初めから料理上手な男性を選んだわけではない。夫を家事や育児に巻き込む、小室氏の戦略が功を奏したのである。

「住まい選びに際しては、キッチンはすべて夫仕様。シンクや棚の高さも彼に合わせ、どこに何を置くのかも決めてもらいました。何事も決定権を持って主体的にやったほうが楽しいし、工夫のしがいがありますよね。料理は夫にとってイノベーションの連続だったようで、どんどん進化しました(笑)」

 自宅で持ち寄りバーベキューを催したときは、保育園のママ友に加えパパたちも呼んだ。すると、父親同士で声をかけ合い、照れずに保育園のお迎えに行くようになってきた。

「今ではパパ友仲間でフットサルのチームをつくっています。おかげで飛躍的に健康になったし、練習後の食事会や飲み会で異業種交流もでき、仕事にもいい影響があるようですよ」

 会社に長時間いても、いいアイデアや新たな人間関係は生まれない。このようにワークとライフが相乗効果の関係になることで、仕事も人生も好転すると、小室氏は言う。

仕事を辞めるということは、約1億円から2億円の収入の機会を失うということでもある。新卒から定年までフルタイムで働き続けることは難しいとしても、なんらかの形で仕事に復帰できれば、総じて片働きよりも経済的に潤う
小室淑恵、駒崎弘樹共著『2人が「最高のチーム」になるワーキングカップルの人生戦略』(英治出版)より。「平成17年度国民生活白書」を基に作成。

家計にも直結する
妻が働きやすい家

「もったいない話だと思いませんか。妻が出産を機に退職し、子育てが一段落した後にパートで働いた場合と、妻が育児休暇を取りながら正社員で働き続けた場合では、生涯賃金に5000万円から2億円もの差が出るんですよ。妻が働き続けられる環境を整えれば、教育費もゆとりが出るので子どもをもっと産めるし、住宅だって楽に買えるのです」

 妻のポテンシャルを侮ってはいけない。ワーク・ライフ・バランスで妻が働き続けられる環境は、今後の住宅選びの最重要課題といえそうだ。