宝石のような
ボトルインクに凝る時間
万年筆は機能的な道具であると同時に、カジュアルでシックなアクセサリーでもあり、装飾性は重要なポイントだ。「スーベレーン」は、天冠やペン先に刻印されたペリカンのロゴ、そのくちばしのように優美なクリップ、そして胴軸を飾る独特のしま目模様が特徴だが、決して華美には走らない。そうしたモダンな空気を呼吸する風情が、“書く”という行為・所作にこだわる人々をさらに魅了するのかもしれない。
万年筆とインクの相性も重要だ。万年筆と過ごす時間を楽しみたい人は、やはりボトルインクに凝るべきだ。ペリカンはインクメーカーとして著名なだけあって、そのインクには定評がある。一般的なボトルインク8色のほか、高級インクコレクション「エーデルシュタイン」シリーズでは宝石の名を冠した8色に、毎年異なった特色「インク・オブ・ザ・イヤー」が限定で加わる。
イノベーションを続ける
老舗ブランド
1930年代に生産された101Nを現代の素材を使って復活させたM101N トータスシェルブラウン(右)と同リザード(左)。クリップの形状や大きさなど当時のままで、温かみのあるデザインだ
ペリカンが世界のブランドとして広く愛されるようになった理由は、手堅いクラフトマンシップだけではない。日々、機能とデザインの改良を続ける革新性にこそ、その秘密がある。インクフィーダー機構やキャップ構造など「スーベレーン」も初代モデルと現行モデルでは細部に変遷がある。
絶えずイノベーションを続けながらも、時には廃番となったヴィンテージ品を復刻する遊び心も。例えば、戦前のデザイン百花繚乱の時代を象徴する「101N」ライン。キャップと軸の両方が色柄で、中でもべっ甲柄の「M101N トータスシェルブラウン」は中古市場でも人気が高かった。愛好家の声がドイツ本社に届き、2011年、現代素材を使った特別生産品として復刻された。
製品の先には常にユーザーの姿が映し出されている。万年筆と共に生き続ける人々の時間が、次の製品開発に織り込まれている。愛すべきモノと人との関係。デジタル製品には求めても得られない永遠のぬくもりが、そこにはある。