ところがたまにズルをしてテストをすり抜け、外に出ていく劣等生もいる。そういう出来損ないのリンパ球に対しては、優等生の先輩リンパ球が再教育をして更生させます。それでも自他の認識ができず、自分を攻撃してしまう不良学生は、先輩が力技で押さえ込んで排除するのです」

免疫細胞がクーデターを
起こさないための仕組み

 私たちの免疫系は、二重、三重の教育システムによって能力と安全性が厳しくチェックされ、異物を攻撃・排除し(免疫応答)、自分自身を攻撃しない(自己免疫寛容)という、曲芸のような機能を果たしている。優れて精巧でありながら、きわどいバランスの上で攻撃と寛容を使い分けているからこそ、その仕組みの破綻や誤作動や暴走は私たちの生体に深刻な事態を引き起こすことになる。

 日本人の3人に1人がかかっているといわれるアレルギー性疾患、あるいは自己免疫疾患、社会問題となっているエイズなど、免疫機構の破綻が原因で起こる疾患でその治療法が未解決のものは多い。

「出来損ないのリンパ球が何らかの手違いで胸腺を出て体中を駆け巡り、戦ってはいけない自分自身を攻撃してしまうのが自己免疫疾患です。自分の関節と戦えば関節リウマチとなり、自分の肺臓を攻撃すれば間質性肺炎、大腸で過剰反応を起こせば潰瘍性大腸炎となります。

 これらの病気は、自分の体の構成物に対する、一部の免疫細胞によるクーデターのようなもの。暴徒と化した免疫細胞たちに、『自分自身と、戦ってはいけないよ』と再度教え諭すことができれば、自己免疫疾患を根本的に治療することができます。免疫システムにおいて自己を攻撃しない仕組みを自己免疫寛容といいますが、この免疫寛容をいかに誘導するかが鍵となるのです」(奥村教授)