新人に訪問先リストをつくらせるな
いま、印刷業界の方から「従来の営業を変えたい」というご相談をよくお受けします。業界は成熟しており、縮小傾向にあり、既存顧客を守っているだけではジリ貧なので、ほとんどの経営者は「新規開拓をやれ」とハッパをかけています。似たような状況に直面している業界はほかにも、IT、人材、住宅、金融など数多くあります。
新規開拓に注力するのは結構なことですが、その方針が営業現場に落ちてきたときに何の加工もされていないケースがあまりにも多い。ここに問題があります。マネージャーの担当者への指示は、「新規をやれ」というだけ。結果が出なければ、「それだけしか回ってこなかったのか」「もっと飛び込め」「足で稼げ」と繰り返すばかりです。
本当に、このようなやり方で結果が出ると考えているのでしょうか。確かに、かつては足で稼げた時代もありました。何十社かに飛び込み営業をかければ、案件が生まれることもあったでしょう。しかし、それは業界全体が成長していた時代の話です。
そんな古き良き時代の成功体験を引きずっている営業マネージャー、経営者が少なくありません。いまや営業を取り巻く環境は、根性論や精神論で稼げるほど甘くはなく、同じことをやれば負け続けるのは目に見えています。
「新規をやれ」とか「足で稼げ」と言うだけのマネージャーを、私は「概念論者」と呼んでいます。理屈をこねて概念を振りかざし、具体論が欠けているからです。
具体的なイメージがなければ、人は動きません。例えば新規開拓の場合、最も重要なのが訪問先リストです。そして、訪問時にどのような資料を持って行き、どのようなトークで話を始めるか、電話をかけてから訪問するのか、いきなり飛び込むのか、それとも「電話→DM→2度目の電話」を経て訪問するのかなど、山ほどある選択肢の中から、最適なアプローチを設計しなければならないのです。
新人や若手の部下に対しては、なおさらです。指示はできるだけ具体的でなければ、部下は顧客像や訪問先での会話をイメージすることができません。
このように言うと、「マニュアル人間になってしまう」という反論があるかもしれません。あるいは、「具体的な指示を与えないのは、若手に考えさせるためだ」と言うマネージャーもいるでしょう。しかし、「自分で考えろ」は多くの場合、丸投げになってしまいます。育つはずの部下の成長の芽を摘んでしまうことも多いのです。
部下を育てるつもりがあるのなら、マネージャーが具体論を示さなければなりません。その具体論を追体験するという行動をしていく中で、部下は成長します。部下の経験値が高まれば、少しずつ任せる部分を増やしていく。それが部下を育てる最も確実な方法です。